憲法を生かす会関東
憲法を生かす会関東連絡会ニュース
第5号    2009年3月20日  


ソマリア沖派兵に反対! いらない!「海賊」新法


政府は3月13日、ソマリア沖の「海賊」対策を口実に自衛隊法に基づく海上自衛隊の派遣を決め、浜田防衛相は同日、海上警備行動を発令した。14日、約400人が乗り込んだ海自護衛艦2隻が呉基地を出航し、はるかアフリカ沖へ向かった。護衛艦には海上保安官8人と海自の特殊部隊「特別警備隊」も乗船している。
 麻生首相はみずから「法律として、いろいろな不備があるため、派遣される自衛官とか海保の人たちが危険な目に遭う、迷惑をかける」と発言(13日)し、まさに「自衛隊派遣ありき」を暴露している。
 また政府は、ソマリア沖派兵とあわせ「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律案」いわゆる「海賊」新法を閣議決定し国会へ提出した。「海賊」新法は、「船舶を停船させるための射撃」や「すべての国の船舶を保護対象とする」と規定。
「任務遂行のための武器使用」を認め、武力行使(憲法違反)に大きく踏み込み、また集団的自衛権行使(憲法違反)への布石といえる内容である。
海上警備行動には法的には期限はなく、「海賊」新法も期限切れのない恒久法。国会が賛否を示すのは事実上、法案の採決時だけであり、派兵が政府にほぼ−任されるされる。国民を無視した(できる)危ないものでもある。
 「海賊」対策なら良いんじやない、よくからないね…ソマリア沖へ自衛隊派遣について世論の賛否は括抗している。ソマリア派兵に対する野党第1党の民主党の態度もいまだ定かではない。5月3日の憲法集会の取り組みと合わせ、ソマリア沖派兵に反対!いらない!「海賊」新法の世論を大きく盛り上げよう。憲法9条をまもり、生かす運動で自衛隊の海外派遣、派兵恒久法を止めさせよう。
  


ソマリア沖派遣、田母神問題からみえる
文民統制の不在

半田 滋
東京新聞編集委員


 2月8日「自衛隊の暴走を許すな!一田母神問題を検証する」講演・学習会が開かれ(憲法を生かす会開東連絡会が主催)、弁護士の内田雅敏さん(「誤った歴史観は核兵器と同じように危険だ」)と東京新聞の半田滋さんが講演した。
半田さんのお話を記録から文章整理したものを掲載する。本人の了解は得ているが、見出し等含めて文責はすべて編集者にある。
なお無断転載はお断りします。


 1.文民統制を軽んじたソマリア沖派遣

 自衛隊法による派遣
 浜田防衛相は海上自衛隊に対して海上警備行動に基づくソマリア沖派遣のための準備指示を出し、直接の派遣部隊になる自衛艦隊司令部に対しては準備命令を出しました(1月28日)。海自呉基地(広島県)にある第4護衛隊群第8護衛隊所属の護衛艦、「さざなみ」(基準排水量4650t)と「さみだれ」(同4550t)が派遣されます。3月上旬ごろ改めて派遣命令が下され、呉港から出港して約3週間かけてソマリア沖まで進出、遅くとも4月上旬には現地で海賊対策を実施するという段取りです。自衛隊法82粂の海上警備行動(*)に基づく活動ということになります。
 本日浜田防衛相が海賊対策のための新法を国会に上程することが派遣の条件であるというような話をされたので、国会に「海賊新法」が上程されることが派遣の条件になるのかも知れません。
 海警行動は、過去2回発動されました。1回は2001年に能登半島沖に北朝鮮の工作船が出没したとき。海上保安庁の巡視船が追跡したが追いつけなくて、自衛隊がバトンタッチで追いかける事態になり、この時に海上自衛隊の護衛艦に対して初めて海警行動が発令されました。もう1件は04年沖縄近海の南西諸島で、中国潜水艦の領海侵犯に対して海警行動が発動されました。この2回はいずれも日本近海における活動でした。
 自衛隊法は1954年に自衛隊が誕生する根拠法令として作られ、もともと自衛隊は、国を守る、日本人の生命と財産を守ることが役割ですから、その活動はあくまで日本及び日本近海が想定されています。そこで、自衛隊法によってはるか遠くアフリカ沖まで出て行っていいのかという疑問が浮かびます。
 実は自衛隊が、自衛隊法のみで海外に出て行った例が過去1回だけあります。湾岸戦争(1991年)が終わった後に、日本船舶の安全航行を大義名分としてペルシャ湾にばら撒かれた機雷除去のために海上自衛隊の掃海艇が出て行きました。機雷除去については自衛隊法99条(*)に書かれています。しかし活動範囲としては海上としか書かれていません。つまり「場所」が特定されていないわけです。海上であればどこでも活動できると都合よく解釈して、自衛隊法によって海上自衛隊がペルシャ湾まで派遣されたのです。
 しかしこれには、政府与党内でも自衛隊法の拡大解釈ではないかという議論もあり、自衛隊とを動かすにはきちんとした歯止めが必要であるという反省もありまして、以後の自衛隊の海外活動は、そのための法律が作られた上で派遣されることになっていきます。
 92年にPKO(国連平和維持活動)協力法が定められます。大変な反対運動の中での成立でしたが、PKO協力法ができて陸上自衛隊がカンボジアに派遣されました。以後PKO協力法に基づく派遣、国際緊急援助隊法に基づく国際災害への派遣が続きます。
 2000年以降は、特別措置法の「テロ特措法」「イラク特措法」を根拠にインド洋やイラク・クウェートに派遣されているわけです。今日の段階としては、国連や国際機関の要請による派遣ではなくて、日本が「自主的」に行きたいところへ法律を作って出て行くというように変わってきたわけです。
 というわけで、自衛隊を海外に派遣するには自衛隊法だけではない法律で位置づけることが定着してきたと思っていたのですが、今回のソマリア沖派遣では18年ぶりに自衛隊法だけで出て行くことになります。

 自衛隊法で派遣する理由?
 アフリカ沖を通る日本の船は年間2000隻あり、1日平均5.5隻の船が「海賊」が出るといわれているソマリア沖を通るそうです。昨秋の臨時国会で民主党の長島議員が、ソ与リア沖の海賊対策をやらなくていいのか、護衛艦が先頭になって船団を引っ張って行けば海賊が寄ってこないだろうと言ったら、麻生首相がそれは建設的なご意見だ=@と答弁し、「何かやらなくては」ということになり、浜田防衛相にご下問がなされたわけです。
 ところが防衛省の方は、国会のねじれ現象のなかで、新法の制定は無理だと見ていましたから、積極的に海賊対策のための法律を作るという空気にはならなかった。しかし12月になったら空気がガラッと変わります。
 何があったか。中国が駆逐艦2隻と補給艦を海賊対策でソマリア沖に派遣すると表明したのです。これに目の色を変えたのが外務省で、日本が行かないのはまだしも中国が行くのは何事かというわけで、中国のソマリア派遣に対するリアクションが大きくなって、首相官邸からも浜田防衛相に海自派遣の検討を加速しろという命がありました。という経緯で、昨年12月から今日まで一番手短にある自衛隊法でとりあえず派遣するという話でどんどん進んできたわけです。

*自衛隊法82条=長官は、海上における人命若しくは財産の保護又は治安の維持のために特別の必要がある場合 には、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に海上において必要な行動をとることを命ずることができる。
*自衛隊法99条=海上自衛隊は、長官の命を受け、海上における機雷その他の爆発性の危険物の除去及びこれらの処理を行うものとする。


 海上警備行動でアフリカまで行っていいのか?
 自衛隊法が日本や日本近海を前提としていることからすれば、海賊対策という大義名分があるからと言って、はるか1万キロメートルも離れたアフリカで活動していいのか?そこがまず疑問の第1点です。
 もう1つは、PKO協力法あるいはテロ特措法、イラク特措法では、自衛隊を派遣するのに際して基本計画あるいは実施計画を防衛省が定め、何時から、何処へ、どんな人たちが、何時まで″sきますということを決めるわけです。そして基本的には半年毎に、その計画をリニューアルして実施いくわけです。また基本計画や実施計画はすべて閣議決定がなされます。内閣が自衛隊派遣に責任を持つわけです。国会に対しても報告や承認をうける義務があります。つまり国会と内閣がダブルで文民統制しているわけです。
 しかし海警行動には、そうした規定はどこにも書かれていません。つまり行くと決めたら行ける。極端に言えば、首相と防衛相2人の阿件の呼吸で派遣できます。総理の承認には閣議決定が必要であるから一応閣議の責任はあるとは言えますが、海警行動の命令を出すのはあくまで浜田防衛相ひとりです。いま浜田防衛相には非常に重たい責任が被さっています。ですから果たして脱法のような派遣でいいのか悩んでいます。それで、「海賊新法」の国会上程を条件にしているというわけです。

 武器使用をめぐる危うい点
 海警行動では正当防衛と緊急避難でしか武器の使用はできません。実はすべての海外派遣において正当防衛と緊急避難でしか自衛隊は武器を使えません。それ以外の場面で武器使用を認めるとしたら、憲法を変えないとなりません。憲法9条のもとで自衛隊が活動する以上は正当防衛と緊急避難以外の武器使用はありえません。ですからこの点では今回のソマリア沖派遣でも特段の変化はありません。
 ただし海警行動ではあくまでも日本に関係したことしか守れません。日本船籍もしくは日本人船員が乗っている船、日本向け貨物を載せている船というように「日本関係」がキーワードです。自衛隊艦がいる海域の近くで日本と関係ない船からのSOSを受けても護衛艦は助けには行けません。
他国の軍艦は助けに行けますから非常に片務性が出てきます。また日本の護衛艦はシーマンシップにも障ると批判されかねない問題が起るかもしれません。
 いま与党・海賊対策等に関するプロジェクトチームのなかで非常に楽観的な議論がなされていますが、実に心配です。海賊の定義についてです。国連海洋法条約で海賊とは、私有の船舶や航空機を使って、私的目的のために相手を攻撃し、略奪や誘拐したりすることであり、私的な団体が行う行為となっています。その前提で与党PTの議論も進んでいます。
 何が肝心な点なのか。自衛隊は武器を使う可能性があるけれど武力行使はしない。つまり憲法9条で禁じた武力行使はしてはいけないという歯止めがあります。この武力行使とは、相手が国もしくは国に準ずる組織であった場合、要するに軍隊ですが、軍隊に対して自衛隊が武器を使った場合には武力行使になるからいかんというところに歯止めがあるわけです。ところが海賊は私的な団体と勝手に決めつけて、私的な民間に対して武器を使用しても武力行使にはあたらないということが議論の出発点になってしまっています。そこが非常に危ういところです。
 ソマリアの海賊の実体は?誰も実際に見て来て話したことはありません。本日ちょうど自衛隊の調査団がアフリカに行きました。しかし訪問先にソマリアは入っていません。ソマリアは3年続けて破たん国家第1位で、日本も国として認めていません。国交もない、情報もない状態です。
 ソマリア沖の海賊は漁民のアルバイトのようなものだという一部報道がありますが、呆たしてどうでしょうか?誰もその実体と実態についてはよくわからないのですが、実際にどんな被害にあっているか見ると、海賊は商船に近づいてくる際には、高速のゴムボートで機関銃やロケット砲で重装備をして乗り込んで来る。ゴムボートは大型トロール船などを改造した「母船」に何隻も積み込んであって、「母船」が商船の近くまで行くと観音開きの扉が開いてゴムボートが出てくる。まるで軍事作戦のような展開です。
 21世紀に入ってソマリア暫定政府は、イギリスの軍事民間企業に海軍もしくは沿岸警備隊の養成訓練を依頼して、換船技術や武器の使い方、衛星電話の通信技術などを学んだ。しかしソマリア暫定政権には海軍も沿岸警備隊もできませんでした。大胆に推測すれば、イギリスの軍事民間企業から訓練を受けた国もしくは国に準ずる組織の人たちが海賊を率いているのではないか?海賊で獲得した身代金はソマリア暫定政府に入っている?という疑いもあるわけです。そうした検証を抜きにして、私的な団体、民間だから武力行使にはあたらないという楽観論でことが突き進んでいます。実に危うい点です。

 自衛隊側の事情
 昨年2月イージス艦「あたご」が漁船「清徳丸」と衝突して、漁船に乗っていた親子2人が亡くなりました。この事故原因を探るために海上幕僚監部という海上自衛隊の司令部組織の中で指拝官会議が開かれました。急遽全国から幹部を集めて意見を言わせたら、ヤマのように問題が出てきたのです。それを集約して言えば、インド洋の洋上補給等いま自衛隊にいろんな任務が与えられてきているが、艦艇部隊の人が足りないっまり任務と兵力のバランスがとれない現状のままではまた事故が起きるということでした。
 そして昨年12月に海上幕僚監部は、抜本対策として「見直し」を発表しました。例えば、護衛艦は人員不足のまま7割くらいの充足率で動いている艦が当たり前にあるが、護衛艦の数を減らしてでもいいから定員を充足して監視の目をたくさんつけるというような見直しが出されました。こうした「見直し」が出されたのが昨年12月です。その12月に先述したように海賊対策を早くやれと首相官邸から言われたのです。こうした経緯もあって、ほんとうに政治家は自衛隊のことをよく知っているのだろうかという懐疑が自衛隊側に浮かぶわけです。

 ずるずる続く?海上警備行動
 とりあえず海警行動が発令されて出航していく護衛艦は、「海賊新法」が成立すればそれに派遣の根拠を切り替えることになっています。
 ただ「海賊新法」がどんなものかまだわかりません。−部報道によれば、例えば従来はできないとされていた「任務遂行のための武器使用」が認められそうだということです。とすれば自衛隊の護衛艦が、明らかに他国の商船に近づいていく海賊を発見したときに、海警行動では対処できませんが、海賊船を機関銃で撃つあるいは逮捕できるようするというのが「海賊新法」でしょう。ですから「海賊新法」も先述した海賊が民間、私的な団体であるという前提にたっているのです。もし海賊が軍隊であった場合には、軍に対する 言いがかり≠笊雛ヘ行使になってしまいます。
 「海賊新法」がどんな内容かまだわかりません。また現在の国会情勢からして成立するかどうか定かではありません。そうなると海警行動で派遣された自衛隊艦は、「永遠に」海警行動のままになるのではないか?ということは、期限も切られないで、内閣も国会もほとんど関与しない形で、自衛隊の海外派遣がズルズルとなされていくという問題になります。


 2.なぜ文民統制が重要なのか

 「軍隊からの安全」
 文民統制とは何かという話をします。
 どの国でもその軍隊は他の行政機関とは比較にならない暴力装置を持っています。戦闘機や戦車を持っている。暴力装置を持つ特別な組織です。そして弱い軍隊では役に立たないから精強でなければならないという宿命があります。
 また軍隊は、その役割ゆえに民主主義とは相容れない特徴を持っています。階級制があり、上官の命令は絶対で、部下から上官に対して意見具申はできない組織構成になっています。暴力装置があり、民主主義国家の−般的な社会と相容れない組織であるのが軍隊であるとすれば、自衛隊も軍隊であると言えます。
 そして「軍隊からの安全」を考えなくてはならないというのが、ローマ帝国時代の昔から永遠のテーマなわけです。つまり暴力装置を持った人たちが国家の中に存在するということは、その人たちにとって何か不満があったときに暴力装置を国家の内側に向ける、つまりクーデターを起こすことが可能なわけです。だから「軍隊からの安全」がつねに考えられてきたのです。軍隊をいかに制御していくかというテーマが長らく考えられてきたところです。
 では「軍隊からの安全」を確保するためにはどうすればいいか。政治家が責任を持つべきであるというのが結論です。それはずっと昔から言われています。
 しかしまた同時に、民主主義なき文民統制は可能ではあるが、文民統制なき民主主義はありえないとも言われます。
 中国は、共産党という政党が軍に対して責任を持っています。ところが1989年の天安門事件では、政治家の命令によって軍隊が出動して大勢の市民が犠牲になりました。ヒトラーはワイマール憲法のもとで選挙に勝ち上がって国家元首になり、あの戦争を遂行しました。ナチスドイツも文民統制を行ったわけです。独裁国家でも文民統制はあり得るのです。しかし民主主義国家においては文民統制なき民主主義はありえません。

 自衛隊の「生まれの不幸」
 戦前日本は軍の独走によって戦争がはじまり、拡大していったという反省から、軍隊に対する危機感、警戒心が国民に強くありました。また戦後国民は憲法9条を歓迎して受け入れたわけです。
 ところが朝鮮戦争が起きるとGHQの命令があって、警察予備隊として自衛隊が発足していくわけです。自衛隊はもともと国民が願って生まれてきたものではないという「生まれの不幸」があります。生まれの不幸とまた実際に自衛隊が活躍する場がない、つまり日本は戦争することが一度もなかったので政治家と自衛隊とのかかわりがもともと非常に希薄でした。そしてとりわけ、自衛隊を強くしよう、防衛費を増やそうと言っても選挙で票になりません。むしろ国民から反発されましたから、政治家の自衛隊へのかかわりの度合いが薄くなってきました。
 とくに「自・社」2大政党の対立がはじまる1955年以降、いわゆる「55年体制」のもとでは、自衛隊を認めない社会党、自衛隊を認める自民党との間で様々な国会論戦はあったものの事実として自衛隊は動かなかったということから、国会論戦を通じて文民統制がなされているという誤解も生じました。いずれにしろ政治家の自衛隊に対する意識、かかわりの度合いは、非常に希薄だった。その状態が長く続いてきました。

 内外情勢の変化に伴う政治のかかわり
 この状態が1990年代に入って変化してきます。94年に「自・社・さ」連立政権ができ、社会党の村山さんが首相になる。村山首相はそれまでの社会党の考えをがらりと変えて自衛隊を認め、かつ日米安保条約も容認するとしたわけです。国内政治的に与野党で自衛隊のあり方に対する議論ができるような環境ができてきたということです。
 もうひとつは89年ベルリンの壁の崩壊、91年ソ連の崩壊です。もともとアメリカの要請によって対ソ連で作られた自衛隊がいらなくなってしまうわけです。また同時にこの頃クリントン大統領の日本バッシングも起きてきます。アメリカに見捨てられてはいかんという考えの政治家が多いので、なんとかしようと具体的に考えるようになります。
 93年に北朝鮮がNPT脱退を表明します。これに対してアメリカは北朝鮮を攻撃することを考えました。結果的に5万人くらいの死者が米軍と韓国軍に出るという予測が出され、北朝鮮攻撃を止めましたが、この過程でどう攻撃するか具体的なプランが練られました。その中で日本に対する約1000項目の支援要求が出てくるのです。日本はすべてノーと言いました。こうした事情もあって日本はなおさらアメリカから疎まれようになってきました。
 これではいかんと考えた政治家たちによって96年に日米安保共同宣言がなされていきます。橋本首相、クリントン大統領のときです。この宣言では何を謳ったのか。自衛隊は日本だけでなく周辺にも出て行きます。ただし今の段階では災害派遣で出て行きますと但し書き付きですが、海外に派遣することを約束しました。そして97年には日米ガイドラインが締結されます。この新ガイドラインではアメリカが周辺で行う戦争に対しても協力することが明記されました。仕上げは99年の周辺事態法です。周辺の地理的概念は明らかにされていませんが、あくまで日本周辺で起こる、起こすアメリカの戦争に対して日本は協力するというものです。こうして日米関係を再び修復、再構築していきました。
 そして2001年同時多発テロとアメリカのアフガン攻撃です。テロ特措法を作りインド洋での洋上補給が始まり、03年アメリカがイラクに殴りこみに行ったときには日本もイラクに米軍支援を手伝いに行きました。そして米ソ冷戦時代のときと同じくらい日米関係が良くなってきたというのが今日までの歴史です。この中で道具として使われてきたのが自衛隊です。自衛隊を差し出すことによって日米関係が担保されてきたと言えます。いわば人身御供として自衛隊が使われてきたのです。
 さらにもう一つ、中央省庁改変と小泉首相の登場が大きいファクターです。いままで自衛隊関係の法律は防衛省に任せておいたものが、小泉首相によって内閣官房が力を持ってきます。テロ特措法、イラク特措法はすべて内閣官房で書きました。防衛省は一行も書いていません。首相官邸の自衛隊へのかかわり方がたいへん深くなってきたことが非常に変化してきたところです。
 以上お話したことはこ 政治家と自衛隊の関わりがどうなってきているかを言ったのであって、政治家が責任を持って自衛隊をコントロールしているかどうかという問題とは別の話です。ここは誤解しないようにしてください。


 3.自衛隊は本当に強いのか

 張り子のトラでよかった冷戦期
 ところで自衛隊は強いのか?はっきり言ってわかりません。防衛費は昨年中国に抜かれて6位になりましたが、世界第5位の防衛費です。1位アメリカは50兆円、これは例外です。日本は4.7兆円の防衛費で自衛隊を運営しています。陸上自衛隊官は約16万人、戦車は800柄あります。護衛艦は約50隻あります。航空自衛隊の作戦機は360機くらいでその内戦闘機は260機くらいあります。自衛隊全体で24万人ですから、24万人の軍隊にしては、他国の軍隊と比較すると武器は非常に多いといえます。
 自衛隊には武器はふんだんにあると言えます。なぜか?ソ連が攻めて来ないようにしなさいと言われて創設した経緯からしてソ連から見て手を出したら焼けどするという組織にする必要があったのです。つまり本当に強いかどうかはともかくとして強く見せなくてはならなかった。張り子のトラにする必要が自衛隊の生まれの宿命からしてあったわけです。だから武器はたくさん持っています。冷戦期までは「揃える自衛隊」「備える自衛隊」と言われました。90年代になって海外活動が始まり、自衛隊が海外に派遣されるようになってくると「機能する自衛隊」が求められてくるわけです。
 武器はたくさんありますが、実はそれを全部使うだけの兵員が自衛隊にはありません。だから実際にはこれらの武器は使えません。また、もし戦争を始めたとしても自衛隊が発足以来目標に掲げている「弾薬備蓄30日間」は、今日まで一度たりとも達成したことはありません。戦争を始めてもすぐに息切れしてしまいます。


 4.防衛費の内幕

 防衛真の内訳
 では防衛費4.7兆円は何に使われているのか。4割は人件費です。24万人いる自衛官と2万人の事務官の人件費です。あと4割は歳出化経費(*)で、護衛艦や戦闘機などをたくさん買うための付け払いの費用、ローンです。それが4割もあります。残り2割が−般物件費として自衛隊を活用するためのお金です。これが約9000億円です。実際に自衛隊を動かしているお金は9000億円と言っても過言ではありません。
 この9000億円で、例えば米国等に無料で提供する油を買い(インド洋での補給活動)、壊れた武器などを修理する修理費などをすべて賄っています。災害派遣の活動費もこの9000億円の中で遣り繰りしなくてはいけないことになっていいます。


*防衛関係費は、「人件・糧食費」と「物件費」に大別され、さらに「物件費」は、過年度の契約に基づき支払われる「歳出化経費」とその年度の契約に基づき支払われる「一般物件費」とに区分される。「歳出化産費」=艦船や航空機など主要な正面装備の調達には複数年度にわたるものがある。これらの調達にあたっては、当初、原則5年以内にわたる契約を行うための予算措置を行う。それを根拠として、あらかじめ将来の一定時期に支払いをする契約を締結する。そしてその契約年限の範囲内で、各年度ごとに支払いのための予算措置を行う。このうち、契約した翌年度以降、支払時期が到来してその年度に予算計上されたものを「歳出化経費」という。ちなみに、支払時期が到来しておらず、今後支払う予定のものを「後年度負担」という。


 ミサイル防衛
 最近の防衛費で何が問題か、2つあります。2つともアメリカが絡んでいます。1つはミサイル防衛、もう1つが米軍再編です。
 ミサイル防衛は、アメリカがレーガン政権当時にスターウオーズ計画として発案して10兆円かけてやりましたが中途半端なものしかできなかった代物です。世界中でアメリカからミサイル防衛システムを買っているのは日本だけです。すでに1兆円ちかいお金がミサイル防衛経費として投下されています。そのかなりの部分がアメリカに流れているわけです。
 ミサイル防衛は、効果があるか否かは別の話なのです。昨年海上自衛隊のイージス艦がハワイ沖で迎撃試験をやりました。一昨年は成功しましたが、昨年は迎撃に失放しました。これでは役に立たないではないかと言うと、だから地上にPAC3を配備しているということになります。しかし航空自衛隊には6個の高射群が全国に配置されていますが、PAC3を持っているのは3個高射群です。PAC3の傘から外れる北海道、東北、四国、中国はどうする?首都東京は?そのために一応は入間基地(埼玉県)にPAC3が配備されている。とはいえPAC3で守れる範囲を円で描くと東京の大半が円から外れます。これでは東京も守れないではないかと言えば、いやいやPAC3には車輪がついていて動きますから…となります。もし北朝鮮がノドンを撃ったら何分で東京に落ちるのかと訊けば10分ですと。ではPAC3は10分で対応できるのかと訊けば黙ってしまうわけです。…というのがミサイル防衛システムです。
 ミサイル防衛システムについては経費だけの問題ではありません。果たしてほんとうに地域の安全に役に立つのか、どのように評価されているかも考えなくてはいけません。
 アメリカはミサイル防衛システムを東ヨーロッパのポーランドとチェコに配備すると表明していますが、それによって第2の冷戦期を迎えようとしています。つまりロシアが強く反対しています。ロシアは、アメリカはイランが発射したミサイルを撃ち落すためと言っているが、ロシアに対してもミサイル防衛は被さっていて、結局ロシアのミサイルを無力化して、一方的に核兵力のバランスを崩すのではないかと言っています。その通りだと思います。オバマ大統領に変わって、ミサイル防衛システムはどうなるかまだわかりません。昨日バイデン副大統領が演説で、ミサイル防衛システムについては費用対効果を考えてやると言っていますが、東ヨーロッパへの配備については言及していませんので、どうなるかわかりません。
 日本のミサイル防衛システムに対しては、北朝鮮と中国が反対しています。中国は昨年と一昨年潜水艦から自国の砂漠に向けて弾道ミサイル発射訓練を実施しました。この訓練は、ミサイル防衛システムは役に立たないというシグナルです。北朝鮮は一昨年7月に、日本海に向けて7発の弾道ミサイルを連射しましたが、これも実はミサイル防衛システムの弱点を知っているというシグナルなわけです。
 ミサイル防衛システムは、まずアメリカの偵察衛星がミサイルが発射されそうだという兆候をつかみます。いま報道されている、北朝鮮がテポドン2を東海岸のムスダンリ舞水端里で準備しているということなどはすべてアメリカの偵察衛星によってわかることです。つまりミサイルが事前にどこから発射されるか監視していなくてはなりません。また迎撃ミサイルには限界がありますから、上空で多弾頭化されたりすると困るわけです。中国が潜水艦からミサイル発射訓練をしたのは、どこから撃つかわからないから守りようがない、つまりミサイル防衛システムは無駄であると伝えているわけです。ロシアもアメリカがチェコとポーランドに配備するミサイル防衛システムに対抗して同じような訓練をやっています。ロシアの森の中に移動式の発射台を見つからないようにあちこちに置いて、そこからミサイルを発射する。発射した弾は宇宙空間で幾つにも分かれました。迎撃ミサイルの数は限られていますから、上空で多弾頭化させられると撃ちもらしが必ず出るわけです。アメリカのミサイル防衛システム配備に反対している国々は、ミサイル防衛網を突破する方法はいくらでもあると実践して見せていると言えるわけです。
 日本はそういうミサイル防衛システムにもう1兆円も投じました。これはまだ初期投資です。従来武器は完成して性能が確認されていたものを買っていたのに、なぜかミサイル防衛システムだけは開発途中のものを高額な金で買うことを決めてしまいました。ミサイル防衛システムはスパイラル開発といって作りながらまずいところを直していくというやり方をしていますから、完成するまで何年かかるかわかりません。従っていくらお金がかかるかもわからないのです。それが防衛費に計上され、今後毎年1500億円くらいの金が追加で出ていきます。今年は1200億円が購入費に充てられています。

 米軍再編はだれのため
 米軍再編はどうか。日本とアメリカとの間で米軍再編の最終合意に基づく協定書ができるようですが、沖縄の海兵隊がグアム島に移転するのにかかる費用が102億ドルといわれ、その内日本側が負担すると約束したのが60億ドルで、これを払ってください、払いますという協定書を結ぶわけです(注:2月のクリントン国務長官来日時に締結された)。60億ドル、約5400億円がアメリカにいくわけです。
 5400億円がすべてではなくて、アメリカ側の交渉当事者ローレンスは、日本側の負担は3兆円だと言っています。その費用には例えば厚木基地から岩国基地に移転していく空母艦載機部隊が岩国で生活するのに必要な隊舎を作る、学校など作る費用も入っています。様々なお金がこの中に含まれています。
 これは昨年防衛省で問題になりました。さすがにこれらぜんぶを防衛費で飲み込むことになったら自衛隊は何もできませんということになります。だから財務省と交渉して防衛費ではなくて外出し、防衛費以外の他の経費で出してくれ要求しました。しかし財務省からは蹴られました。結局防衛費で飲み込むことになりました。とりあえず来年は800億円くらいですからまだいいのですが、米軍再編の最終年度は2014年度ですから、09年から6年間であと3兆円を払わなくてはいけないわけです。ということはいずれ、年間4000〜5000億円がどかんと乗ってくる。9000億円しかない防衛費はもうパンクすることは確実なわけです。ですから自衛隊はほんとうに強いのかという議論自体が成り立たない話になっているのではないかというところです。


 5.防衛省改革会議の核心

 始まる制服と背広の一体化
 つぎに防衛省改革会議のことです。
 防衛省・自衛隊で不祥事が相次ぎました。文官では守屋事務次官のゴルフ代やお金をもらって山田洋行に便宜を図ったという汚職事件がありました。「あたご」の衝突事故もありましたし、イージス艦の情報漏えい事件もありました。様々な問題が噴出したわけです。それでどうするかということで一昨年首相官邸に防衛省改革会議が設置されて、昨年7月に−応の結論がまとまったわけです。
 その防衛省改革会議の報告にこんな文章があります。「かつて文民統制といえば軍事実力組織からの安全を担保するための仕組みであると考えられてきた。軍が国を敗戦に導いた過去をもつ我が国にとってとりわけ重い課題である。戦後の自衛隊の運営においてこの意味での文民統制が必要であるとされてきたのには十分理由がある。しかし自衛隊誕生以来の実績をみれば自衛隊が民主的政治の意向を無視して行動する可能性がほとんどないことは明白である。このような消極的な文民統制という考え方に対していまや軍事実力組織をいかに効果的に使って安全保障を高めるかという積極的な観点の文民統制の考え方も十分考慮にいれなければならない。軍事実力組織の暴走は防がなければならないが軍事実力組織が必要とされるとき機能しないのでは国の安全保障は保てないからである」。
 「軍隊からの安全」はもう確保されている、つまり戦後60年の長きにわたって自衛隊は悪さをしなかった、国民に銃を向けなかったということが大前提になっています一昨年の田母神論文問題でこの前提は根底から覆ったのかなとも思いますが、とりあえず防衛省改革会議の報告書にはそう書かれています。
 そして具体的にどんなことが提言されたか。防衛省にはいわゆる内局があります。約700人からなる官僚組織です。それ以外に陸・海・空と統合の4つの幕僚監部という司令部機能を持つ制服組の組織があります。いままで内局(背広組)と制服組は完全に分かれていましたが、背広と制服に分けているものを見直そうということが出されました。
 いま自衛隊には陸・海・空の自衛隊の上に立ち束ねる組織として統合幕僚監部ができています。統合幕僚監部が一元的に自衛隊を活用します。「運用の一元化」が行われています。そういう形をよく見て検討して行けば、制服と背広の相互乗り入れができるではないかということで、例えば、内局にある運用企画局(自衛隊を使うためにある部局)はいらない、統合幕僚監部に入れてしまおう、統合幕僚監部の2番目に背広の人をいれたらどうかということが出てきました。逆に内局にある防衛政策局(防衛政策を考える局)に幹部自衛官はいませんが、この2番目くらいの位置に制服組を入れようと。つまり制服組と背広組を一部とはいえ混在させていくことが謳われているわけです。
 昨年田母神事件が起きた後、ああいう制服組を入れてはいかんという野党やマスコミからの疑問視する声があがってきましたが、防衛省は、むしろ制服組がどんなことを考えているか、どう動いていくか監視しなくてはならないという理由で、結局は報告書どおりにやりましょうという結論になっています。ですから制服組と背広組の一体化は今後間違いなく進んでいきます。

 内局の役割とは
 内局の役割について説明しなくてはなりません。先述しているように日本の政治家と自衛隊のかかわり具合はあまり強くない。組織としては内閣と国会、行政と立法機関がかかわる形にはなっているけれども、政治家個人、個人で見ていくと、票にはならないから自衛隊のことは触れない。そして「遺棄されたような自衛隊」と「見捨てる側である政治家」という立場関係が続いてきているわけです。そうした政治家と自衛隊の関係のなかで内局(内部部局)がいわゆる文官統制、文民統制ではなくて文官統制つまり文官官僚による統制行ってきて(疑似統制)なんとなく納まりがついてきたという側面があります。
 とくに自衛隊法には防衛参事官制度があって、いわゆる文民を防衛庁長官の補佐役に添えるという考え方がありました。いまもそうです。この参事官には本来、各省事務次官を経験したような人、有識者、行政経験もあり政治も理解できるという人が参事官として就任することが期待されました。実際に現在も参事官と呼ばれる人は防衛省にいます。財務省や総務省、警察庁から来ています。しかし残念ながら若手の官僚です。防衛省に来ても外様で仕事がわからないような人がそこに挟まっているわけで、当初期待されたような有識者としての助言がまったくできない。それが参事官の実態です。この参事官制度を廃止し、防衛大臣を補佐する役割として新たに大臣が任命する防衛補佐官を作ろうというわけです。どれだけ実効性があるかわかりません。

 防衛真の一元化
 防衛省改革会議で出てきている問題に、防衛費の−元化という大きいテーマもあります。
 防衛費は4兆7000億円と言いましたが、実は概ね陸上自衛隊が1.5兆、海上自衛隊と航空自衛隊が各1兆円となっています。陸自がひとり1.5兆円を取っている。海自からすれば面白くないという問題はあるのですが、それでいいのかという議論が持ち上がってきて、今まで陸・海・空ごとに予算要求してきたのを止め、予算要求する部署を1つにして要求することにすれば不公平なく予算が回るのではないかということで一元化が出てきました。
 報告書はもうひとつ特徴的なことして、首相官邸に安全保障戦略を作成してもらう、安全保障会議が機能するように本来の役割を果たしてもらいましょうと書きました。自衛隊には年1回首相の訓話を聞くという高級幹部会同という会合があります。昨年9月に開催されましたが、当時の福田首相は欠席です。首相の欠席は初めてです。びっくりしました。自衛隊法で最高指拝官と明記されている総理が行かなかったのです。ですから、官邸機能が本当に強化されるとは防衛省は誰も思っていないのですが、報告書には書かれています。
 結局防衛省が組織をあれこれといじっても防衛省の中だけで文民統制ができるわけではありません。官邸と国会の関与がきちっとしていかないと防衛省の改革も絵に措いた餅になっていってしまうと思います。


 6.自衛隊は「聖域」でいいのか

 野放しの幹部教育
 以上のようにお話してくると、自衛隊は政治家から見捨てられ、野放しになっているではないか、と思われると思います。まさにその通りです。田母神問題が発覚していみじくも問題が明らなったと言えます。
 田母神さんは「日本は侵略国家であったのか」と論文にタイトルをつけながら、列強の中で侵略国家でなかった国はあるのか、日本だけが侵略国家と言われる筋合いはない、と侵略国家であったことを認めているわけです。論文自体はあまり文章を書きなれない人の論理矛盾に満ちた手遊びみたいなものです。一等賞にならなければ問題にならなかったと本人も言っていました。本音だと思います。その程度の論文です。
 しかし問題は、田母神問題は氷山の一角であり、海の下にもっと大きな問題が隠れているのではないかと誰でも思うところにあります。
 私が5回で連載した「東京新聞」の記事(「揺らぐ文民統制」)がありますが、その1回目の記事に防衛大学校のことが書いてあります。防衛大学校は神奈川県横須賀市にあり、戦前の陸軍と海軍は仲が悪かったという反省から陸・海・空自衛官の幹部を養成するために1つの学校にして、そこで同じ釜の飯を食うことで仲良くやりましょうという趣旨で作られました。幹部自衛官になる人の大半は防衛大学校を卒業しています。幕僚長はみな防大の卒業生です。田母神さんも防大卒業生です。 防大には毎年400人くらいの新入生が入学してきますが、彼らには「必読資料集」が配られます。その中に、1984年の入学式で土田国保さん(元警視総監)が行った講演録があります。愛国心について語っている非常に長い文章のものです。その文章には唐突に、戦後の精神の空白のすき間に突出してきたのがマルクス・レーニン主義であり、マルクス・レーニン主義とは階級なき社会をつくり、国家を消滅させる思想と断定して、こういう見方が日教組を中心に戦後の教育界に大きな影響をもたらし、現在でもその尾を引いている、と書かれています。たまたま愛国心について幹部自衛官と話すと、判で押したようにまったくこれと同じように日教組が悪いと言います。戦後の教育が悪いから国民に愛国心がないと言います。土田さんの愛国心の講和が載った必読集は、1984年に語られて以降毎年配られていますから、よく学習されていることがわかります。
 2003年空自で指拝幕僚課程の試験が行われました。将官クラスになるには指挿幕僚課程を修了しないとなりませんから、みんな必ず受験します。防大卒業生は全員受けると言っていい。この試験のテーマのひとつが愛国心でした。そして試験後の講評で1等空佐が、ごく一部の受験生において戦後のいわゆる自虐史観教育による影響から抜け切れず、その考え方を是とした者がいたのは極めて残念であったと述べています。つまり村山談話のようなことを言ってはいかんと言っているわけです。ということは、日本は侵略国家でなかったと書いた論文が高い評価を得て、そう書いた人が将来将官になる道が開かれると想像できるわけです。
 この時の2次試験の際の講評には、「防衛問題(専守防衛、攻勢作戦、武器輸出3原則など)は高等教育を授かった受験者ほど、従来の枠組みの中での発想しか見られず、意気込みを感じることが少なかった」とあります。専守防衛では足りないから攻めに行けというようなことを書いた論文がいい得点を取ったのでしょうか。武器輸出禁止3原則は止めて日本はどんどん武器を輸出しろと考えている人が幹部としてふさわしい考えだと評価されたということになるわけです。
 国会でも自衛隊の教育がどうなっているか議論になりました。田母神さんが統幕学校長といって幹部自衛官の登竜門の学校長をやった時に、歴史教育を新たに取り入れて、その講師に新しい歴史教科書をつくる会の人物などを入れたのは、非常にわかりやすい偏向ではあるのですが、それ以外のところでは実態はなかなかわかりません。 プロの軍人として学ばなければならないことは様々に多く、歴史教育がさほど多くはないことは事実として言えますが、ただし試験のふるいにかけたりすれば、やはりそうした考え方を書かなくてはならなくなります。書くには自分がそう思っていないと書きにくいものです。とすれば徐々にひとつの色に染まっていくのではないかという疑いはもたれます。
 自衛隊内の教育についてどうすればいいか、はっきりしないまま田母神問題が下火になるにつれて国会の議論からも消えていってしまっています。

 オンブズマン制度の必要性
 自衛隊については、もっと息長く問題を見ていく必要があります。防衛庁・防衛省で、長官・大臣が何人いたか?73人です。
73人ですから1人の任期は平均1年未満です。一番短い人は3週間で大臣を辞めました。そんな短期間で防衛省、自衛隊のことを理解するのは不可能です。不可能だから官僚に丸投げして官僚が文官統制する。こうなると官僚による自衛隊のコントロールしかできなくなってしまう。ちなみに、日本の自衛隊は1954年にできましたが、ドイツは1955年ドイツ国防軍ができますが、ドイツではこれまで14人の国防大臣しかいません。日本と比べ5倍くらいの任期があります。また政治家でない大臣もいます。アメリカのゲーツ国防長官は元CIA長官ですが、政治家ではありません。ロシアめ現在の国防大臣も政治家でありません。だから政治家でない人であっても文民統制はできるのです。つまりきちっとした内閣の指導の下で健康な考えを持った人がやれば文民統制はできるのです。国会や内閣の関与があればできるのではないでしょうか。
 セクハラやいじめの問題などいま自衛隊にはいろんな問題があります。毎年90人前後の人が自殺しています。同じ世代の職業の人と比べると1.5倍くらいです。これは何を物語っているか。閉鎖された組織だということです。その教育の実態もわからなければ、内部の生活についてもよくもわからないというのが一般社会の感覚ではないでしょうか。どうやって風通しをよくするか真剣に考える時期にきていると思います。
 ドイツでは国会の議長経験者くらいの非常に経験のある人が、国会から指名されてオンブズマンとして、いっでもどこでも軍隊を査察する権限を持っています。兵士から投書が届き、これは査察しなければならないと判断すれば、事務局には50人くらいの足がありますから、いきなり部隊に行って調べます。そして毎年3月にオンブズマンの調査は国会に報告されます。そしてそれがメディアに報道されます。こうした制度によって民主的な軍隊を維持していく工夫がなされています。いろんな国がドイツに視察に行っています。韓国もオンブズマンを取り入れようとしています。中国からも視察に来たのでドイツのオンブズマンが非常に驚いていました。
 日本では政治家が自衛隊に対して宿命的に関心がもてないということであれば、議会がオンブズマンを選んで、市民の代表がオンブズマンになって自衛隊を監視していくというような次善の策をとっていかないといけないのではないかと思います。そういう形でしかもう自衛隊を民主的に運営していく方法はないだろうと思います。


       

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