事例1: |
離島等にあける不法行為への対処 |
シナリオ |
「武装している疑いのある集団を載せた他国船舶が我が国の離島等に接近し、その一部が上陸した。その過程で、武装していることが明らかになった。当該離島等に警察機関が存在せず、かつ、海保も近傍に所在しないことから、速やかに対処することが困難な場合がありうる。他方、適当な部隊が訓練などで近傍に所在するなど、自衛隊は速やかに不法行為の阻止や排除を行うことができる場合がありうる。」 |
検討: |
@そのような船舶の接近、上陸を(誰が?)探知したら、都道府県警や海保に連絡が行き、対応策がとられるはず。「警察機関や海保の不存在」は考えられない。
A「離島等」は当初、尖閣や南西諸島などの「離島」が強調された。しかし「等」とは何かとの質問に、「たとえば北海道」と答弁され、実質的に本土全域が含まれうることが明らかになった。政府は、「離島や(本土の)僻地」を例示し、自衛隊に警察権を付与する「海上警備行動」発令などの手続きを簡略化・迅速化するとしており、通常の警察権を飛び越え、直接に武力鎮圧できるようにするもの。
B「警察機関などの不存在」は、やがて「警察などの能力不足」と読み変えられる可能性も。 |
事例2: |
公海上で訓練などを実施中の自衛隊が遭遇した不法行為への対処 |
シナリオ |
「自衛隊が公海上で訓練などを実施中、我が国の民間船舶が他国船舶(武装集団)から不法行為を受けている場面に遭遇。海保は近傍に存在しない。自衛隊が速やかに阻止・排除を行うことができる場合がありうる。」 |
検討: |
@この「他国船舶」とは、海賊や、尖閣周辺などでの中国漁船、北朝鮮の武装船などを想定していると思われるが、いずれも海保が警察権の行使として対処してきた。自衛隊は直ちに海保に連絡して対処を促し、対処が実施されるまで他国船舶の近傍で“監視している”ことが基本。
A自衛隊がいきなり「阻止・排除」という武力鎮圧に乗り出せば、対象船舶の所属国は「日本軍が自国民を武力攻撃した」と受けとめかねない。
Bまして尖閣周辺では、「(両国は)すべての紛争を平和的手段で解決し、武力または武力による威嚇に訴えない」(日中平和友好条約第1条2項)ため、双方とも軍艦や空軍機を出さないようにしている。この条約上および政治的な配慮が覆されることになる。 |
事例3: |
弾道ミサイル発射警戒時の米艦防護 |
シナリオ |
「我が国近隣で、武力攻撃が発生していない状況下で弾道ミサイル発射の徴候があり、米イージス艦と自衛艦が警戒中。イージス艦は弾道ミサイル対処中は、航空機・対艦ミサイルからの自艦防御能力が相対的に低下する。米国が米艦防護を要請してきた。」 |
検討: |
@米国は太平洋に30隻ものイージス艦を配備、自衛隊は6隻。しかも、米イージス艦の対空能力は自衛隊のイージス艦より優れている。
A相手国の航空機や対艦ミサイルへの自衛隊の対処は、まず、日本の防空識別圏や領空の警護活動となるはず。
Bこれを超える自衛隊の武力行使は、相手国にとって「自衛隊による先制攻撃」となり、日本攻撃の理由になりうる。 |
参考: |
領海内で戦没航行する外国の軍用潜水艦への対処 |
シナリオ |
「戦没航行する外国の潜水艦が領海に侵入。自衛隊が海上警備行動で浮上や退去を求めたが、要求に応じず排徊を継続する場合で、我が国に対する武力攻撃と判断されない段階。」 |
検討: |
@戦没航行する潜水艦は、安保法制懇報告では「事例」の一つとされたが、政府の提示では「参考」に格下げされた。これは問題点が多いため、「論点整理が必要で、警告の手段は限定される」という認識に至ったからだ。
A潜水艦は、浮上や退去の要求がされ(=発見され)た場合、直ちに離脱することが鉄則。「排徊を継続」など考えにくい。
Bその潜水艦が事故などで浮上や移動ができない場合、自衛隊が爆雷警告や直接攻撃に出たら、害意のない多国艦を先制攻撃したと受けとめられ、本格的な戦争に発展しかねない。 |
U. |
国連平和維持活動(PKO)を含む国際協力等=4事例 |
事例4: |
侵略行為に対抗するための国際協力としての支援 |
シナリオ |
「ある地域で侵略行為が発生し、国連安保理が加盟国に『武力行使』容認決議を採択。多国籍軍が構成され、国連および米国など各国から拠点間の輸送、水・燃料の補給、負傷者への医療など『武力行使』に当たらない支援活動への自衛隊派遣の要請があった。」 |
検討: |
@武力行使中の他国軍への後方支援は、本来、また相手国からは日本による武力行使と解される。“直接鉄砲を打っていないから武力行使ではない、武力行使と一体化したものではない”というのは、日本だけの勝手な理屈だ。
A他国での侵略の事態は、まぎれもなく「国際紛争」であり、その“解決”のために自衛隊という武力を用いるのは憲法9条に違反する。
B侵略軍一多国籍軍の武力衝突では、多数の民間人の被害や難民・避難民が発生する。日本は、平和解決のための独自の外交努力とともに、これらへの人道支援に力を注ぐことで、“責任ある国際社会の一員”(政府説明)となることができる。 |
注: |
政府は6月3日、憲法上できないとしてきた「武力行使との一体化」になる活動について “新基準”を示した。@支援する部隊が現に戦闘行為を行っている、A提供する物品が他国の戦闘行為に直接用いられる、B自衛隊の活動場所が他出の戦闘行為の現場に当たる、C後方支援が戦闘行為と密接に関係する、という4条件すべてを満たす場合以外は「武力行使との一体化」ではないというもの。4条件のうち1つでも欠けていたら「武力行使との一体化」にはならないことになり、事実上の全面解禁に等しい。 |
事例5: |
駆けつけ警護 |
シナリオ |
「自衛隊部隊が国連PKOに参加しており、周囲では我が国のNGOも復興のために活動しているが、情勢は安定していない。そのNGOや他国部隊を含むPKO要員が自衛隊の所在地から離れた場所で武装集団に襲われた。近くに対処能力を持つ部隊は自衛隊だけで、救援を要請してきた。」 |
検討: |
@「駆けつけ警護」の対象は、従来、PKOの他国部隊とされてきた。今回は「我が国NGO」を前面に出し、“民間人の救護”かのようなイメージ操作をしている。
APKOは本来、停戦の実現を前提に派遣されるが、しばしば情勢は不安定化し、武力衝突が再燃しうる。紛争の一方の当事者が、PKO部隊も“敵(政府)側”とみなす場合、攻撃の対象になりうる。その対象部隊を武力で支援・救出すれば、自衛隊が紛争の当事者になる。なお、攻撃者が強盗などの場合は、“犯罪からの防護”として憲法上の武力行使とは別との解釈が成り立つが、敵対する当事者に“テロリスト、犯罪者”というレッテルを貼る例は多く、判別は容易とは言えない。このため、現PKO法では、駆けつけ警護は自衛隊による武力行使となる恐れがあるとして、許されていない。
BNGOは“非軍事・中立”を掲げ、それを信頼する地元住民に密着した活動が特性で、情勢の悪化を独自にキャッチし、その場合は退避・撤退する。それが“日本軍に守られている”(軍隊に地元情報を伝えている)となれば、活動の存立基盤そのものを損なうことになる。この事例は、“NGOの守護神”を売りにして、NGOの精神を否定するものでもある。 |
事例6: |
任務遂行のための武器使用 |
シナリオ |
「PKOで自衛隊が他国部隊とも協力して、負傷したNGO職員等を緊急輸送するため負傷者のもとに移動中、武装集団が道路を封鎖。妨害を排除しなければ人命が失われる。」 |
検討: |
@停戦の破たんにより道路封鎖などが行われている場合、それを“人命救助の任務への妨害”として武力で排除すれば、それ自体、自衛隊が紛争に武力介入することになる。
A国連PKOの「標準作戦規定」(SOP)では、合意された武装解除や兵力引き離し地帯の監視などPKF(平和維持軍)の任務遂行に当たり、「任務遂行のための武力行使」(use
of force)を認めることもあるが、それはほとんど「自己防衛」と表裏一体のものであり、武力衝突に至るような場合は、PKO部隊の退避・退去や任務の中断を行う。
B“人命救助”のために、より多くの人命を奪うというのは、PKOの自己否定になりかねない。敵意のない人道支援であれば、武装集団との交渉こそ必要で、合意が得られない場合は中断または別の迂回路・方法を探るべきだ。
Cここでも“負傷したNGO職員等”と例示したのは、それを看板に「等」の兵士も含みうるという、ごまかしの話法。 |
事例7: |
領域国の同意に基づく邦人救出 |
シナリオ |
「某国でテロ集団による邦人および外国人の生命が脅かされる事案が相次いで発生。その国の治安当局は能力不足で、自衛隊が邦人の救出作戦を行うことに同意。」 |
検討: |
@紛争を抱えた政府は、反政府勢力を“テロ集団”と呼ぶことが多いが、“テロ”の国際的定義は存在していない。政権の強権や腐敗で反政府運動が高まった場合、政権派と反政府派の衝突で危険にさらされる邦人=外国人を退避させる努力は当然、それぞれの国の政府がすべきだが、それが“テロ集団”に対する武力行使を伴うなら、自衛隊は政権側に立って武力介入したことになる。
A現行の自衛隊法では、在外邦人の国外退避のために陸海空自衛隊による「輸送」ができることになっているが、それはあくまで武力行使を伴わない「退避支援」であり、武力による「救出作戦」ではない。
B安倍首相は、母親や乳児の絵のパネルをかざして、“国民の命を守るため”と連呼したが、情勢悪化の兆候が出た段階から退避勧告やそのための手段、便宜の提供などに努めるのは当然で、それでも邦人が逃げ遅れたとすれば、政府の努力不足・失敗である(これは避難者輸送艦船の防護の事例にもあてはまる)。 |
V. |
「武力の行使」に当たり得る活動=8事例 |
事例8: |
邦人輸送中の米輸送艦の防護 |
シナリオ |
「近隣で武力攻撃が発生し、米艦は公海上で攻撃を受けている。攻撃国の言動から、我 が国にも攻撃が行われかねない状況にあり、取り残されている多数の在留邦人の輸送が我が国だけでは対処しきれない。そこで米国が我が国の要請を受け、艦艇により輸送しているが、輸送艦は防御能力が低く、米国が防護を要請してきた。」 |
検討: |
@軍事状況は“周辺事態”にあるが、こうした武力衝突の兆候がある段階から日本政府が どのように在留邦人の避難をさせるかの作業について、まったくシナリオには含まれてい ない。かつてのシミュレーションでは、韓国在留邦人数を3万人として、武力攻撃に至る前に2万人を自主的に退避させ、残りの1万人はソウル2、釜山1の空港に集め、飛行機またはフェリーなどで帰国させるという計画だったという。それがないまま、いきなり米艦艇による輸送が持ち出されている。
A米国は戦闘中であり、加えて民間人を避難させるなら在留米国人を優先するだろう。日 本が要請したからといって、優先順位は変わらない。一方、他国民を輸送する余裕があるなら、その艦艇には米軍自身が護衛を付けるはずで、輸送艦艇は提供するが防護は日本に、というのは考えにくい。
B邦人輸送に当たるのが「米艦艇」なら、収容能力は小さい。日本が攻撃されていないの であれば、日本政府が攻撃国に「この船は民間人を輸送するので、攻撃するな」と通告・交渉すべきで、その保障が確保されない場合、戦闘が行われている海域を船で運ぶこと自体無謀になる。
C安倍首相は、国会で「邦人輸送を頼むのは米艦だけとは限らない」、また、「防護する のは邦人の輸送船だけでもない」と答弁した。邦人を輸送する(米国以外の)他国の艦船も、日本人以外の民間人を輸送する艦船も防護するというのである。“攻撃国”とそれらの国の関係はどうなっているかを問わず、自衛隊が武力行使しうるというのでは、戦火に油を注ぐようなもの。 |
事例9: |
武力攻撃を受けている米艦の防護 |
シナリオ |
「近隣で武力攻撃が発生し、米艦は公海上で攻撃を受けている。我が国への武力攻撃は 認定されないものの、行われかねない状況である。展開している多数の米艦の中には、補給や補修のために在日米軍施設・区域に出入りするものも含まれる。その中には防御能力が十分でない輸送艦や補給艦もあり、米国がこれらへの防護を要請してきた。」 |
検討: |
@武力衝突の原因や経過はまったく度外視されている。米国による先制攻撃が原因で武力衝突に至った場合でも自衛隊が防護するというのでは、「集団的自衛権の行使」とはいえず、不法な戦争・侵略行為への加担となる。
A“攻撃国”が奇襲し、武力も相当に優勢である場合にのみ、米艦が防護不十分なままに行動することになる。世界最強を誇る第7艦隊などが展開するなかで、米側をそうした状況に追い込みうるような回が存在するという想定は非現実的だ。
Bそれが“将来の中国軍”を想定しているのなら、日本のこうした方針は軍拡競争を促す要素にしかならない。 |
事例10: |
強制的な停船検査 |
シナリオ |
「近隣で武力攻撃が発生し、米艦は公海上で武力攻撃を受けている。我が国への攻撃は認定されていないが、攻撃が行われかねない状況である。武器等の物資を積んで攻撃国に向かっている疑いのある船舶がたびたび我が国周辺を航行しており、これらの武器により紛争が拡大し、米国の同盟国である我が国も攻撃を受け、国民の生命が犠牲になるおそれが極めて高い。米国がこのような船舶の強制的な停船検査を要請してきた。」 |
検討: |
@日本が攻撃されていない(相手国には攻撃の意思が見られない)場合でも日本が米艦を武力で防護するなら、それ自体が相手国の攻撃を呼びこむことになる。相手国への軍事物資の輸送は、戦闘継続に不可欠な補給行為であり、これを阻止するのはまぎれもない参戦行為である。
A停船検査は、航行の阻止、船舶の舎捕、積荷の没収、乗組員の拘束などを含むことになるから、船舶の旗国が日本の行動は不法行為として抗議し、外交関係の悪化も招きうる。
B停戦に応じず、検査に抵抗した場合、自衛隊はその輸送船に武力攻撃を行うことになり、乗組員の死傷や輸送船の沈没などの重大な結果になりかねない。それは報復攻撃(相手国にとっての個別的自衛権の行使)の理由とされうる。 |
事例11: |
米国に向け我が国上空を横切る弾道ミサイル迎撃 |
シナリオ |
「ある国に駐留する米軍に対し、米国を巻き込む武力攻撃が発生した。攻撃国内の発射地点からグアムやハワイに向かう弾道ミサイルが我が国上空を横切ることが想定される。米国から迎撃要請があった。攻撃国は、米国とともに我が国を敵視する言動を繰り返し、早急に阻止しなければ我が国にも攻撃が行われかねない状況にある。」 |
検討: |
@当初、“米本土に向かうと思われる弾道ミサイルの迎撃”も喧伝されていた。しかし、米本土に向かうには、日本上空を飛ぶのではなく、サハリンやオホーツク海を経由するしかないことが指摘され、この事例は引っ込められた。
Aハワイやグアムに向かう弾道ミサイルは日本上空を飛ぶが、日本上空ではかなりの高空を飛翔し、これを迎撃するのは技術的にも難しい。また、発射地点が複数あれば、そのコースも変わり、迎撃ミサイルを搭載した自衛隊のイージス艦は広い海域に展開しておく必要がある。まして、弾頭がある程度高度を下げる落下コースで迎撃しようとすれば、自衛艦はハワイやグアムの周辺に待機しなければならない。自衛艦は、攻撃されるかもしれない日本の防衛を放棄することになる。
Bハワイやグアムを攻撃する国が、より近接した在日米軍基地には弾道ミサイルを撃ち込まないという想定自体が、非現実的。軍事論としては、在日米軍基地へのミサイル攻撃の方がはるかに可能性が大きく、その場合、ハワイやグアムに向かうミサイルどころではないはず。 |
事例12: |
弾道ミサイル発射警戒時の米艦防護 |
シナリオ |
「ある国に駐留する米軍に対し、米国を巻き込む武力攻撃が発生し、戦闘が急速に発展しつつある。米国のイージス艦と我が国の艦艇が警戒に当たっている。イージス艦は、弾道ミサイル対処を行っている際は、航空機・対艦ミサイルから防御する能力は相当に低下する。米国が米艦の防護を要請してきた。攻撃国は、米国とともに我が国を敵視する言動を繰り返し、早急に阻止しなければ、次は我が国にも攻撃が行われかねない状況にある。」 |
検討: |
@米国のイージス艦保有数は84隻だが、自衛隊は6隻。しかも、イージス艦はミサイル、航空機などの複数目標に同時対処できるというのがセールスポイントだ。自衛隊のイージス艦より性能が高い米国のイージス艦が、防御能力不足を理由に自衛艦に防護を要請するというのは、米軍の本音か、それとも自衛隊を戦争に組み込む口実か。
A第三国に駐留する米軍が戦闘に巻き込まれた場合、攻撃国が“次は日本も攻撃”と考える最大の理由は、日本が“いかなる場合も米国と共に戦う”と宣言し、その態勢をつくっていることになろう。 |
事例13: |
米本土が武力攻撃を受け、我が国近隣で作戟を行うときの米艦防護 |
シナリオ |
「米本土が、我が国近隣の攻撃国から大量破壊兵器を搭載した弾道ミサイルによる大規模攻撃を受けた。米国は、我が国近隣で攻撃国に対する作戦を開始した。攻撃国は、米国とともに我が国を敵視する言動を繰り返し、早急に阻止しなければ、次は我が国にも攻撃が行われかねない状況にある。展開している多数の米艦の中には、補給や補修のために在日米軍施設・区域に出入りするものも含まれる。その中には防御能力が十分でない輸送艦や補給艦もあり、米国がこれらへの防護を要請してきた。」 |
検討: |
@これは戦略ミサイルによる最終戦争のシナリオである。この場合、総力戦になり、攻撃国に近接する在日米軍基地などの駐留米軍は、同時に攻撃対象になるだろう。“我が国に対する攻撃は発生していない”から、米国の輸送艦や補給艦を防護できるという“余裕”もないはず。
A米軍の戦争体制に深く組み込まれている自衛隊は、当初から攻撃対象になり、「集団的自衛権」どころか、個別的自衛権の行使で大わらわになろう。
Bこのような戦争が起これば、米本土も攻撃国も、もちろん日本も破壊しつくされよう。米ソ冷戦時代、全面的な核戦争のシナリオは、自衛隊では対処できないとして、“ない(考えない)”ことになっていた。米中戦争のシナリオもこれに近い。政府の事例で想定しているのは、北朝鮮などの数発のミサイル攻撃で、それ以外の戦闘では自衛隊の通常戦力でも対処可能という、都合のいい“机上の想定”である。 |
事例14: |
国際的な機雷掃海活動への参加 |
シナリオ |
「我が国の船舶が多数航行し、輸入原油の大部分が通過する重要な海峡(たとえばホルムズ海峡)の近隣で武力攻撃が発生した。米国をはじめとする各国は軍事行動を開始した。攻撃国とそれに同調する国は反発し、機雷が敷設され、海上交通路が封鎖された。国連および各国から、国際的な機雷掃海活動への参加要請があった。」 |
検討: |
@戦闘地域、特に機雷が敷設された海域をタンカーなどが平常通り航行することはありえない。船主も乗組員も、そんな海峡を通過するような航行は拒否するだろう。“多くの民間船舶に触雷による被害が生じており、犠牲者も発生した”という想定は、敷設国が“機雷など敷設していません”という顔をしていて、各国がそれを信じ、探知もできていない場合だけである。
A機雷の敷設は、武力行使(戦争)の一形態である。それを経済的理由や民間人の「付随的被害」を理由にしても、それを除去するのも戦争行為である。敷設国にとっては、戦争中の掃海作戦は“敵国への加担”(参戦)でしかない。自衛隊は、敷設国の敵国に「集団的自衛権」を行使することになろう。当然、掃海作戦に従事する部隊をこは敷設国からの攻撃がありうる。
B国連安保理が掃海を容認または促す決議をした場合、それへの参加は、集団的安全保障措置における日本の武力行使となる。集団的安全保障措置への参加による武力行使は、「国際紛争解決のための武力行使」となり、憲法上できないはずではなかったか。 |
事例15: |
民間船舶の国際共同護衛 |
シナリオ |
「事例14の場合、米国を含む多くの国の何百隻もの民間船舶が攻撃により被弾した。軍事行動に参加している各国は、軍の艦艇により共同して民間船舶の護衛を行っており、それには我が国船舶も外国船舶も含まれている。各国から、この国際的な共同護衛活動への参加要請があった。」 |
検討: |
@1隻または数隻ならまだしも、“何百隻もの民間船舶が被弾”とは、どういう戦争か?また、船長はどんな判断をしていたのか? 各国政府は、そんな規模の被害が出るまで、自国の船舶に注意も情報提供もしなかったのか? 理解に苦しむ“想定”である。
A武力紛争を起こした当事国に関与していない各国が、武力紛争の終結を待たず、平常の民間船舶の航行を継続させるために共同の護衛作戦を行うというのは考えにくい。ありうるとしたら、“民間船舶への攻撃”を理由として攻撃国への武力攻撃をするための“演出”ではないか。日本は「危険な海域には近寄るな」と言うべきであって、そんな形での軍事介入はすべきではい。 |