「秘密保護法」は、
こんなにヤバイ
憲法を生かす会東京・関東連絡会
パンフレット    2013年11月17日  

何が秘密 それは秘密
どれは秘密 どれども秘密
いつまで秘密 いつまでも秘密

1.何を秘密とするか
2.誰が、どのように「特定秘密」を決めるか
3.「秘密」は権力機構の内部だけに封じ込める
4.「適正評価」
 −「秘密」に接する職員・労働者のプライバシーを徹底調査
5.懲役10年+罰金1000万円!
6.知る権利、報道・出版の自由が奪われる
 −そして“被告人“の防御権もなくなる
7.「特定秘密保護法案」はツワネ原則にも反する
8.「戦争する国」、「国民の自由と人権をしばる国」への突進

   発行:憲法を生かす会東京連絡会/関東連絡会

法案の正式名称は、「特定秘密の保護に関する法律」案といいます。本則26条、附則7条、別表という構成で、全体で34頁です。法案を読んでも分かりにくいので、以下にその問題点をまとめました。
 
はじめに
 「特定秘密保護法案」に付けられた「理由」には、“国際情勢の複雑化に伴い情報の重要性が増大”とか、“高度情報通信ネットワーク社会の発展に伴い漏えいの危険性が懸念される”としか書かれていません。これらは、あまりに抽象的で、「秘密保護法」制定の必要性の説明になっていません。

 この問題で安倍首相は、“北朝鮮や中国の動きなど、日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増している”と、両国の名前を挙げた答弁をしました。しかし、関係改善が必要な近隣国を“日本の安全保障政策の標的”と名指しすること自体、外交上も政治感覚としても誤りです。北朝鮮や中国の動きへの対応が必要だとしても、それには個別の具体的な措置で十分で、こんな包括的でチェックの利かない「秘密保護法」を制定する理由にはなりません。

 しかし一方、政府が海外で武力行使をする態勢を本格化しようとしている場合は、軍事情報、外交情報、警察の治安情報などを厳格な秘密とするでしょう。安倍内閣・自民党は、強力な国家体制を築いて自由と基本的人権を縛り、「国防軍」を置いて集団的自衛権の行使(本格的な武力行使=戦争)をする国に日本をするため、憲法を変えようとしています(この点については「おわりに」で触れます)。

 加えて、政府や官僚たちが、知られたら自分たちに都合の悪い情報(不正や汚職や失敗など)も「秘密」にできるなら、自分たちの保身や政治的延命が容易になります。

 国民に真実を知らせない、知ろうとする者には厳罰を下す ―― これこそ、歴史上も世界的にも何度も出現しては人びとを苦しめてきた“独裁者の論理”です。“国際情勢の複雑化”とか“安保環境の厳しさ”などは、それらの真意をカモフラージュするための“口実”にほかなりません。

.何を秘密とするか
 「特定秘密」に指定する事項は条文本体にはなく、法案末尾の「別表」に掲げられています。しかし、「秘密」の対象・内容が重要なので、まず別表を見てみましょう。

「別表」(骨子)
(1)防衛に関する事項
自衛隊の運用またはこれに関する見積もり、計画、研究
ロ、 防衛に関し収集した電波情報、画像情報その他重要な情報
ハ、 その情報の収集整理、その能力
ニ、 防衛力の整備に関する見積もり、計画、研究
ホ、 武器、弾薬、航空機その他の防衛用の物(船舶を含む)の種類、数量
へ、 防衛用の通信網の構成、通信方法
ト、 防衛用の暗号
チ、 武器、弾薬、航空機その他の防衛用の物、その研究開発段階のものの仕様、性能、使用方法
リ、 武器、弾薬、航空機その他の防衛用の物、その研究開発段階のものの製作、検査、試験の方法
ヌ、 防衛用の施設の設計、性能、内部の用途

(2)外交に関する事項
イ、 外国政府、国際機関との交渉・協力の方針・内容のうち、国民の生命・身体の保護、領域操全、その他の安全保障に関する重要なもの
ロ、 安全保障のために実施する貨物の輸出入の禁止その他の措置、方針
ハ、 安全保障に関し収集した、条約・国際約束に基づき保護が必要な情報その他の重要な情報
ニ、 その情報の収集整理、能力
ホ、 外務省本省と在外公館の間の通信その他の外交用暗号

(3)特定有害活動(注1)の防止に関する事項
(注1)特定有害活動:「公になっていない情報のうち、そしの漏えいが我が国の安全保障 に支障を与えるおそれがあるものを取得するたれの活動と、核兵器、軍用化学製剤・細 菌製剤、その散布装置、運搬できるロケット・無人航空機、その開発・製造・使用・貯 蔵に用いられるおそれが特に大きい物の輸出入活動で、外国の利益を図る目的で行われ、かつ、我が出と国民の安全を若しく害し、又は害するおそれのあるもの」(第12条)
イ、 特定有害活動による被害の発生・拡人の防止のための措置、計画、研究
ロ、 特定有害活動の防止に関し収集した外国政府、国際機関からの情報その他の重要な情報
ハ、 その情報の収集整理、能力
ニ、 特定有害活動の防止用の暗号

(4)テロリズム(注2)の防止に関する事項
(注)テロリズム:「政治上その他の主義主張に基づき、国家や他人に強要し、又は社会 に不安・恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破顔するための活動」第12条
イ、 テロリズムによる被害の発生・拡大の防止のための措置、計画、研究
ロ、 テロリズムの防止に関し収集した外国政府、国際機関からの情報その他の重要な情報
ハ、 その情報の収集整理、能力
ニ、 テロリズムの防止用の暗号

<問題点>
(1)「防衛に関する事項」について
@ 防衛省が公表または宣伝するもの以外は、すべての情報を「特定秘密」に指定できることになります。たとえば、オスプレイや無人機の仕様や性能、使用方法などは、米国ではある程度明らかにされていますが、自衛隊が導入しようとしているオスプレイや無人機は、“自衛隊独自の仕様や性能だ”として「特定秘密」に指定されることにもなるでしょう。その「運用」も明らかにされなければ、住民や自治体による“生命、身体の保護”もできなくなります。
A また、「イラクに派遣された自衛隊の装備や収集した現地の事情など広範な情報」というケースについて、防衛省防衛政策局次長は「一般論として(特定秘密に)該当する可能性がある」と答弁しました(11・8 衆院特別委)。そうなれば、2008年4月に名古屋高裁がイラクでの空輸活動を憲法違反と判断したようなことも、これからは刑事罰を伴って実態が隠されることになります。
B 2007年には、防衛省と陸自の情報保全隊が、自衛隊のイラク派兵に反対する平和団体や個人を監視し、調査報告書を作成していたことが明らかになりました。その内部文書には、41都道府県の289団体・個人の活動状況や写真が記載されていました。守屋事務次官(当時)は、「防衛省設置法に基づく調査・研究だ」と強弁し、久間大臣 (同)は「マスコミの取材の場合は良くて、自衛隊ならダメだという法律の根拠はない」と居直りました。このような思想・良心の自由や集会・結社の自由を侵害する自衛隊の活動の実態や文書も、「特定秘密」に指定されることになるでしょう。

(2)「外交に関する事項」について
@  「外国政府、国際機関との交渉、協力の方針、内容のうち…その他の安全保障に関する重要なもの」とか、「安全保障のために実施する…その他の措置、方針」、「安全保障に関し収集した…その他の重要な情報」など、“その他”がいくつもあり、何でも「特定秘密」に指定できる仕組みになっています。
A 1971年の沖縄返還協定では、米国が接収した土地を戻す原状回復費用は米国が支払うことになっていましたが、裏では日本側が負担する密約を結んでいました。それを報道した毎日新聞の記者・西山太吉さんは、女性事務官に秘密漏えいを“教唆”したとして逮捕、起訴され、有罪になりました。また、当時の佐藤首相は、沖縄返還を“核抜き・本土並み”と宣伝しましたが、実はニクソン大統領と「緊急事態の際は、(沖縄に)核を持ち込む権利が認められる」という秘密文書まで交わしていました。安倍首相は官房長官時代に「密約は一切、存在しないというのが政府の立場だ」と言い続けました。
B 岡田内閣府副大臣は、TPP(環太平洋経済連携協定)などの交渉方針や内容も“安全保障に関する重要事項”に該当する可能性に言及し、「特定秘密」に指定することもありうるとの答弁をしました(11・1衆院特別委)。これでは、私たちの経済生活や社会、そして国際関係が、TPPによって実際はどのように変わろうとしているのか、知ることはできません。

(3)「特定有害活動の防止に関する事項」について
@ “我が国の安全保障に支障を与えるおそれがある情報を取得するための活動”という「特定有害活動」の定義は、あまりに漠然としていて、防衛・外務官僚や警察(警察庁や都道府県の公安警察)の悪意的な適用がいくらでもできることになります。元CIA職員のスノーデン氏が暴露した米国N SAによる外国政府・首脳に対する不法不当な盗聴は、“米国の安全保障のための活動”とされ、それを明らかにした彼の方が“犯罪者”とされているのが典型例です。記者や研究者、市民が、政府や官僚が秘密裏に行っている不法不当な行動や知る価値のある重要な情報を得ようとしたり、それを記事や論文で明らかにすることも「特定有害活動」とされ、厳罰の対象になりうるのです。
A 新聞では、「最近では、04年の米英首脳会談の極秘メモを国会議員周辺に漏らした英内閣府職員らが逮捕され、3カ月の禁固刑を受けた。メモには、当時のブッシュ大統領が中東の衛星放送本社を爆撃したいと発言した、と記されていた」と報じられています。一体、どちらが「有害活動」なのでしょうか。
B それが“外国の利益を図る目的で”行われたかどうか、“我が国の安全を害するおそれ”があるかどうかも抽象的です。ある情報を公表すれば、世界中が知ることになり、それを知った外国政府が何らかの対応をすることもありえます。それをもって“外国の利益を図った”とし、あるいはそれが政府や官僚の不正暴露や信用失墜につながったら、“我が国の安全が害された”と強弁して公表者に厳罰を科すことにもなりえます。

(4)「テロリズムの防止に関する事項」について
@ 「テロリズム」の定義も12条で示されていますが、実はこのような「定義」は国際的に共通したものとして確立していません。“政治上その他の主義主張に基づき、国家や他人に強要”という、きわめてあいまいな表現は権力者に恣意的な判断を許し、「定義」とは言えないものだからです。“政治上の主義主張による強要”には、あらゆる政治的要求とその運動が含まれかねません。
「消費税を増税するな」「原発を再稼働させるな」「集団的自衛権の行使を認めるな」…これらはいずれも、“政治上の主張”による“強い要求”なのですから。
A 森担当相は、「オウム真理教のテロ事件に関する情報も『特定秘密』の対象になりうる」と答弁しました(11・11衆院特別委)。“治安椎持に関する情報”と銘打てば、それらはすべて「特定秘密」に指定されるでしょう。ある意味で、警察が集める情報はすべて“治安情報”ですから、警察(特に公安警察)の活動やその情報は、ますます闇の中に隠されてしまいます。
B また、森担当相は、原発の警備状況や警備計画は「特定秘密」指定されうると述べています。“テロ対策に必要”という理由さえ付ければ、原発施設の配置や原子炉の構造、各システムの性能・弱点なども「特定秘密」とされることになります(実際、東電は駆けつけた東京消防庁に原発敷地内の配置図を見せようとしませんでした)。福島県議会は、政府が放射能雲の拡散データさえ公表しなかったことから、「特定秘密保護法案」の撤回を求める決議を自公を含む全会一致で採択しました。このままでは、私たちの脱原発の要求、運動を“防止”「=弾圧)するための“措置、計画、研究”も「特定秘密」とされ、住民の生命・安全を守るための原発情報の開示要求も拒否されるでしょう。

 2.誰が、どのように「特定秘密」を決めるか
 (1)「特定秘密」を指定するのは「行政機関の長」
・行政機関の長(合議制の機関の場合はその機関)は、「別表の事項に関する情報で、公になっていないもののうち、漏えいが我が国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿が必要なものを特定秘密に指定」し、「指定に関する記録」を作成し、その情報を記録する物件に「特定秘密の表示」をし、表示が困難な場合は情報取扱者に「通知」する。(第3条)・行政機関の長は、指定の日から5年を超えない有効期間を定める。有効期間が終わるときに、なお秘匿が必要なら、5年を超えない範囲で延長する。30年を超えるときは、理由を示して内閣の承認を得る。この場合、秘密保護措置を講じたうえで内閣に特定秘密を提供できる。情報が秘匿の要件を欠くに至ったときは、有効期間内であっても指定を解除する。(第4条)

 (2)「行政機関」の範囲は(第2条)−内閣官房提出資料から
 (1号)内閣官房、内閣法制局、安全保障会議、中心市街地活性化本部、地球温暖化対策推進本部、高度情報通信ネットワーク社会推進本部、都市再生本部、知的財産戦略本部、構造改革特別区域推進本部、地域再生本部、郵政民営化推進本部、道州制特別区域推進本部、総合海洋制作本部、宇宙開発戦略本部、総合特別区域推進本部、復興庁、社会保障制度改革国民会議、原子力防災会議、人事院【計19機関】
 (2号)内閣府、宮内庁、公正取引委員会、国家公安委員会、金融庁、消費者庁【計6機関】
 (3号)総務省、公害等調整委員会、消防庁、法務省、公安審査委員会、公安調査庁、外務省、財務省、国税庁、文部科学省、文化庁、厚生労働省、中央労働委員会、農林水産省、林野庁、水産庁、経済産業省、資源エネルギー庁、特許庁、中小企業庁、国土交通省、運輸安全委員会、観光庁、気象庁、海上保安庁、環境省、原子力規制委員会、防衛省【計28機関】
 (4号)警察庁【1機関/その他「特別の機関で政令で定めるもの」は現時点ではない】
 (5号)検察庁を想定【1機関】
 (6号)会計検査院【1機関】

 (3)「特定秘密」の指定・解除の“統一的な運用基準”で有識者の意見を聴く(第18条)
 
<問題点>
 (1)政府の56もの行政機関のすべてが、厳罰で保護される「特定秘密」を持つことができるようになります。一見、「秘密」に関係なさそうな行政機関まで含まれていますが、“安全保障”と“治安対策”には政府の組織を総動員するという構えです。

 (2)各行政機関の長が指定できるため、機関ごとに情報の種類やレベルが異なることになるでしょう。一応、「政府は、特定秘密の指定、解除の統一的な運用のため、有識者の意見を聴いて基準を定める」ことになっています。私たちは、“有識者会議”なるものが政府と官僚に都合のいい人物で構成され、政府と官僚の意に沿った意見・報告を出してきたことを、いやというほど見てきました。だから、政府がつくる“有識者会議”がまともな意見を述べるとは信じられませんが、そのうえ法案では、単に「意見を聴く」としかなっていません。政治用語・官僚用語としての“尊重する”(=ふりをする)でさえないのです。このため政府は、“聴きおく”だけで、その意見に沿う義務はないことになっています。
 また、有識者会議は一般的な“基準”について意見を述べるだけで、個々の具体的な情報が「特定秘密」に値するか、いつまで秘匿するかなどをチェックする権限はありません。要するに、第三者による監視・検証は一切行われず、政府はいくらでも勝手に「特定秘密」を持つことができるようになるのです。
 さらに、“有識者会議”は密室で行われ、その審議内容も「特定秘密」になるでしょう。議事録がつくられるとの条項もありません。こうして定められた“統一的基準”も、公表されることになっていませんので、「特定秘密」に指定されることになるでしょう。

 (3)各行政機関が保有する「特定秘密」は、指定の有効期間が30年を超えるときに初めて「秘密保護措置を講じたうえで、内閣に提供できる」(第4条3)とされており、それまで各省庁も、他の省庁がどのような秘密情報をどれだけ持っているか分からないという仕組みになっています。
 また、「提供できる」とは、「提供しなければならない」とは違い、担当大臣と内閣の情報担当者の意向で決められることになります。

 (4)その一方で、新設される「国家安全保障会議」(日本版NSC)は、すべての行政機関が持つ情報を集中できることになっています。その“実働部隊”となる「国家安全保障局」(日本版NSA)が、外交、軍事、国内治安などに関する情報を収集・分析し、内閣に新設される「内閣情報官」(附則6条)がそれを吸い上げます。こうして日本版NSCとNSAは事実上、“政府の全情報”を握り、仕分けし、利用できるという絶大な権力を持つことになるでしょう。

 (5)情報活動の“総本山”というべき米国では、時々の大統領が発する大統領令によって情報の秘密定の範囲が拡大したり縮小したりしてきましたが、@例外的な重大な損害をもたらす「機密」、A重大な損害の「極秘」、損害の「秘」と3段階に区分して、「機密」指定が増えるのを抑制するようになっているうえ、「法令違反や非効率性の助長、または行政上の過誤の秘匿」、「特定の個人、組織または行政機関に問題が生じる事態の予防」、「競争の制限」「国家安全保障上の利益の保護に必要のない情報の公開を妨げ、または遅延」させる目的で指定を行うことを禁じています(「米国における国家機密の指定と解除」永野秀雄/HoseiUniversity Repository)。
 しかし、安倍内閣が出した「特定秘密保護法案」には、こうした乱用抑制措置もありません。現に、岡田内閣府副大臣はTP Pなどの交渉方針や内容も「特定秘密」に該当しうると示唆し、森担当相は原発の警備状況や警備計画は「特定秘密」をこ指定されうると語っています。そして礒崎首相補佐官は、「特定秘密」は約80分野で約40万件になるとの見通しを示しました。彼は、「密約が40万件もあるわけではない」と語りましたが、これは国民にも国会にも明らかにされていない密約が相当数存在することを告白したものといえます。

 (6)法案では、「特定秘密」とされた情報は、5年ごとに更新され、30年を超えても(永遠に)隠し続けることができるようになっています。他方、米国では、機密解除の期間を@10年未満、Aそれが困難な場合は上限10年、B情報の機微性を考慮して最長25年となっており、機密解除期間が安易に長期化されないよう、機密指定への異議申立てや、国立公文書館の情報保全監察局長による解除請求権、必要的機密解除審査、省庁間機密指定審査委員会、行政監察などの制度が組み込まれています(同前)。
 政府答弁では、「特別管理秘密」は約42万件で、うち内閣官房が約32万件、防衛省が4万7000件余り、外務省が1万8000件余り、公安調査庁が1万2000件などとなっています。「防衛秘密」は2002年以降、秘密解除後に国立公文書館に移管された文書は1件もなく、2007〜11年の5年間に約3万4300件が廃棄されました。法案には、このような“闇から闇へ”を禁じる規定はなく、不正な、あるいは不必要な秘密指定が私たちの目に触れることはなくなり、政府と官僚の不正、誤りは隠し通されることになります。

 3.「秘密」は権力機構の内部だけに封じ込める
 法案は、行政機関が「特定秘密」を他者に提供できる場合を次のように限定しています。
@ 指定期間が30年を超えるときに内閣に(第4条)、
A 他の行政機関が利用する必要があるとき(第6条)、
B 警察庁が保有する「特定秘密」を都道府県警察に利用させる必要があるとき(第7条1)、
C 都道府県警察が保有する「特定秘密」を警察庁に提供させる〔第7条3)、
D 特段の必要があるとき秘密保護の設備を持ち基準に適合する事業者(「適合事業者」)に「特定秘密」を保有させ(契約に基づいて:第5条4)、また、提供できる(契約に基づいて:第8条1)、
E 外国(国または地域)の政府または国際機関が秘密保護措置を講じているとき(第9条)、
F 国会の委員会・調査会が非公開(秘密会)で行われる場合(第10条1−イ)、
G 刑事事件で裁判所が証拠開示の条件を設定した場合、および秘密が漏れないと認められるときに捜査員、検事に(同ロ)、
H 民事裁判で裁判所が文書提示を命じる場合、秘密に当たるとして何人も開示を求めることができないとき(同二)、
I 情報公開・個人情報保護審査会に提示する場合(同三)、会計検査院の情報公開・個人情報保護審査会に提示する場合(同四)で、何人も審査会に開示を求めることができないとき、
J 警察本部長は、C、F〜Hのとき、または都道府県の情報公開条例で情報公開・個人情報保護審査会に請求された場合で、何人も審査会に開示を求めることができないとき(第10条2)

 <問題点>
 (1)法案をざっと見ただけでは、「特定秘密」を“開示”する場合がけっこう多いという印象(=誤解)を持たされるかもしれません。しかし、法案が条件としている関連法律の条項を調べると、“開示”される「特定秘密」は、<行政機関相互間><警察庁と都道府県警察の間><行政機関と適合事業者の間><外国政府・国際機関><捜査員・検事>や、秘密会・非公開審理での<国会議員><裁判所><各種の情報公開・個人情報保護審査会>に限られていて、それ以外は「何人も開示を求めることができない」 ということになっています。
 要するに、「特定秘密」は各分野の権力機構や特定の業者には“流通”しても、決してそれ以外の市民やメディアには“流出”しないように厳しくブロックされているのです。

 (2)“外国政府または国際機関”に提供する条項があることは、米国やNATO、英仏、オーストラリア、韓国その他の同と、軍事情報や軍の運用・作戦、武器の開発・生産、“テロ情報”などについて緊密な協力・共同を強めていくことを意味しています。集団的自衛権の行使に踏み切り、日本を「戦争する国」にするためには不可欠の要素なのです。
 これにも関連して、「日本版CIAの創設を」という主張が自民党議員などから出ています。日本の軍事・外交政策の対象国の情報だけでなく、同盟国、協力国の動きも把握して、情報で優位に立とうというのでしょうが、このような諜報機関の創設は、秘密情報をますます増やし、社会に不安と緊張、不信と委縮をもたらすだけです。

 4.「適性評価」−「秘密」に接する職員・労働者の生活・人間関係・プライバシーを徹底調査
 「特定秘密」の流通範囲を厳しく制限するだけでは安心できないと、法案は、“特定秘密の取扱者”を絞り込むため、行政機関の職員や警察官、「適合事業者」の労働者に「適性評価」という名の徹底的な人物調査を行うことになっています。その仕組みは次の通りです。

 (1)行政機関の長や警察本部長は、「特定秘密」を取り扱うことが見込まれる職員、適合事業者の従業員に対し、「適性評価」を行う。ただし、行政機関の長、大臣、官房副長官、首相補佐官、副大臣、大臣政務官、その他「政令」で定める者は「適性評価」を受ける必要はない。

 (2)「適性評価」の有効期間は5年未満で、5年を超えて「特定秘密」を扱いつづける見込みの者や、「評価」には合格したがその後、「特定秘密」を洩らす“おそれの疑いを生じさせる事情がある”者には再度実施する。

 (3)「適性評価」の調査事項は、@特定有害活動やテロリズムとの関係(評価対象者の配偶者や父母、子、兄弟姉妹、配偶者の父母、子、同居人の氏名、生年月日、国籍、住所を含む)、A犯罪・懲戒の経歴、B情報取扱いの非違の経歴、C薬物の乱用や影響、D精神疾患、E飲酒の節度、F信用状態その他の経済状況など。

 (4)評価対象者にあらかじめ、@調査事項、およびA行政機関の職員に本人や知人に質問させ、本人に資料を提出させ、各種の公務所や公私の団体に報告を求める旨、またはB疑いを生じさせる事情がある旨を告知し、同意を得て実施する(以上、第12条)。

 (5)「適性評価」の結果は本人に通知する。「特定秘密」を漏らすおそれがないと認められなかった(=「おそれがある」の意)ときは、その理由を通知するが、本人があらかじめ理由の通知を希望しないと申し出た場合は通知しない。適合事業者の従業員についての結果、あるいは従業員が同意しなかったため「適性評価j が実施されなかったときは、その旨を事業者に通知する。通知された適合事業者は、その従業員が派遣労働者のときは、その雇用主に通知する。(第13条)。

 (6)本人は「適性評価」の結果などについて、行政機関の長に書面で苦情の申出ができる。苦情の申出を理由として不利益な取扱いを受けない(第14条)。

 (7)警察本部長は、@「特定秘密」の取扱いを新たに行うことが見込まれる場合、A現に取扱い、直近の「適性評価」の通知から5年を経過しても取扱いを続けることが見込まれる場合、B直近の「適性評価」は通過したが、漏らすおそれの疑いを生じさせる事情がある場合、その都道府県警察職員(本部長は除く)の「適性評価」を実施する(第15条)。

 (8)行政機関の長と警察本部長は、「特定秘密」の保護以外の目的で、本人が「適性評価」に同意しなかったこと、評価の結果、評価にあたって取得した個人情報を利用、提供してはならない。ただし、その個人が刑事罰や懲戒免職その他の免職などの事由に該当する疑いが生じたときは、利用、提供できる。適合事業者や派遣労働者の雇用主は、「特定秘密」保護以外の目的で、通知された内容を利用、提供してはならない(第16条)。

 (9)行政機関の長は、「適性評価」の権限または事務を、その職員に委任できる(第17条)。

 <問題点>
 (1)大臣たちやその取り巻きたちだけは「適性評価」を受けなくていい、というのが“法の下の平等”といえるかどうかは別としても、問題の一つは、企業の労働者や、場合によっては行政機関の職員の「適性評価」を行うのは公安警察になるだろうということです。「特定有害活動やテロリズムとの関係」を調べるとして、家族や交友関係、日常生活、思想傾向などまで調査されることになります。なにしろ携帯電話やメールの盗聴が“政府の常識”というのですから、日常的な会話や通信も調査対象になるでしょう。

 (2)従業員や派遣労働者の「適性評価」の結果は事業主や雇用主にも通知されますから、労働者が不同意や不合格の場合、経営者はその労働者を仕事から外すことになるでしょう。それは、とりもなおさず「解雇」に直結しかねません。法案には「秘密保護の目的以外の利用禁止」の規定はありますが、不利益扱いの禁止条項はなく(あるのは、本人から行政機関の長への苦情申出についてだけ)、事実上、解雇事由の追加になるでしょう。

 (3)行政機関の長や警察本部長、事業者は派遣労働者の雇用主は、「適性評価」にかかわる個人情報を“「特定秘密」保護以外の目的”では利用、提供できないことになっていますが、これは裏を返せば、“「特定秘密」保護の目的”と称すれば利用も提供もできることになりかねません。

 (4)行政機関の長が「適性評価」の権限や事務を職員に委任できるということは、各省庁やその他の多くの行政機関の中に“調査機関”が常設されることを意味します。この調査機関は、同僚の職員を絶えず監視し、その日常生活や交友関係、言動を“評価のための情報”として収集し、記録していくでしょう。そして、何が「特定秘密」か分からないのですから、−般職員の業務上の情報収集も、いっ“情報を漏らすおそれがある動き”と見られるか分からないことになります。行政職員全体に委縮作用が広がっていくでしょう。

 (5)これらの結果、今でもがんじがらめの階級制で縛られている官僚機構・警察機構の中に、もう一つの“位階”が生まれます。「適性評価」を受ける必要がない者、「特定秘密」を扱う資格のある者、初めから「適性評価」の対象にならない者、さらに「適性評価」で“疑いがある”とみなされた者、という序列です。この“事実上の位階制”は、職務・職階と違って隠然としたものですが、その基準が「秘密取扱資格」であるだけに強力な差別構造となり、官僚・警察機構の中に差別、屈従、ねたみ、委縮などの陰湿な人間関係を広げるでしょう。

 (6)また、行政職員や警察官、「適合事業者」の労働者だけでなく、その家族や友人たちも、日常生活や社会的活動、思想傾向などを監視・調査されるのですから、自由とプライバシーは大きく損なわれることになります。このような包括的な秘密保護制度は、“監視社会”のレベルを飛躍的に高めるものです。

 (7)防衛省では、自衛官や職員に対して「身上明細書」という形で個人情報の収集を実施しています。それは、この法案の「適性評価」のモデルともいうべきものです。身上明細書に記入される項目は、「帰化の有無」「住所歴、学歴、職歴」「外国への渡航歴」「負債金額と返済月額、完済予定日」「刑事
処分の有無」「配偶者(婚約者、内縁関係も含む)、親族、同居人」「交友関係」「所属団体(クラブ、連盟、運動、宗教、趣味)」「アルコールや薬物の治療歴の有無」となっており、「適性評価」の調査項目と驚くほど似通っています。
「特定秘密保護法」が成立したら、このような調査が行政機関と関連企業の全体に広がることになるのです。

 5.懲役10年+罰金1000万円!
 「特定秘密」の“漏えい”に対しては非常な重罰が加えられることになっています。

 (1)「特定秘密の取扱いの業務に従事する者」が漏らしたときは、10年以下の懲役か、10年以下の懲役と1000万円以下の罰金の両方に処せられることになります。「従事しなくなった後」に漏らしても、同様の量刑になりますので、いったん「特定秘密」を取扱った人は生涯、沈黙を強いられることになります(第22条1)。また、「特定秘密」取扱者が“過失”によって漏らした場合は、2年以下の禁固か50万円以下の罰金となります(同条4)。

 (2)提供された「特定秘密」を、閣僚らや「外国政府、国際機関(の人間)」、国会議員、刑事・民事の裁判所(の裁判官や職員)、情報公開・個人情報保護審査会(の関係者/会計検査院の審査会や都道府県の該当機関も)、捜査や公訴に従事する者(捜査官、検察官など)、「適合事業者」とその従業員、派遣労働者などが漏らした場合は、5年以下の懲役か、5年以下の懲役と500万円以下の罰金の両方
に処せられます(同条2)。これらの人が“過失”によって漏らした場合は、1年以下の禁固か30万円以下の罰金になります(同条5)。

 (3)次に、「人を欺き、暴行を加え、もしくは脅迫」、「窃取、損壊、施設への侵入、有線電気通信の傍受、不正アクセス」、「その他」の、「特定秘密」保有者の“管理を害する行為”で「特定秘密」を取得した者も、10年以下の懲役か、10年以下の懲役と1000万円以下の罰金の両方に処せられることになっています(第23条)。

 (4)「特定秘密の取扱いの業務に従事する者」が漏らす行為、また「人を欺き、暴行、脅迫、摂取、侵入…」などで“特定秘密保有者の管理を害する行為”を「共謀し、教唆し、または煽動した者」には、5年以下の懲役となります。閣僚や国会議員、裁判所、捜査官、検察官、適合事業者、その従業員、派
遣労働者などに漏らすように「共謀し、教唆し、または煽動した者」には、3年以下の懲役となります(第24条)。

 <問題点>
 (1)現在、「秘密」の漏えいに対する罰則を定めた法律はいくつもありますが、「特定秘密保護法案に関連するものとしては、@日米相互援助協定等に伴う秘密保護法;「特別防衛秘密」を“探知、収集、漏えい”した者は、10年以下の懲役、A日米地位協定に伴う刑事特別法;米軍の秘密を不正に取得した者は10年以下の懲役、B自衛隊法;「防衛秘密」取扱者が漏らした場合、5年以下の懲役(取扱業務をしなくなった後も)、C国家公務員法、地方公務員法;業務で知り得た秘密の漏えいは、最高1年の懲役または50万円の罰金、となっています。
 これらと比べると、今回の「特定秘密保護法案」は、@の「日米協定に伴う秘密保護法」やAの「刑事特別法」に罰則をそろえて強化していることが分かります。自衛隊法では「防衛秘密」の漏えいでさえ「5年以下」ですから、この法律が制定されれば、一挙に2倍の厳罰になります。また、各行政機関の職員などの処罰は、懲役1年から10年へ10倍に、あるいは罰金50万円から1000万円へ20倍にもなります。
 自民党の石場幹事長は、「特定秘密を漏らした者は死刑か懲役300年にでも」と言いましたが、戦前の治安椎持法も懲役10年以下から出発し、やがて死刑へと厳罰化されたのです。

 (2)すでに指摘されてきたように、国会の秘密会で「特定秘密」を示された国会議員が、その内容や問題点について秘書や国会の調査室に相談すれば、たちまち“特定秘密を漏らした”として逮捕され、懲役刑になりかねません。もし、国会議員が秘密会での説明のメモをとって、そのメモを置き忘れたり、
ブログなどで言及しても、やはり“有罪”とされるでしょう。“国民の代表”であるはずの国会議員が、主権者である国民には何も言えなくなるのです。そして、秘密会に出席できない大多数の国会議員は、どんな「特定秘密」が問題になったか知ることができないままになります。

 (3)「特定秘密」保有者の“管理を害する行為”には、“暴行や脅迫”、“窃取や侵入”だけでなく「その他」の行為も含まれています。“管理を害する行為”とは、どういう意味でしょうか。「秘密を漏らさない」ことが“管理”の意味だとすれば、どんな形やルートにせよ、漏れた途端に“管理が害された”
ことになるでしょう。つまり、“暴行や脅迫”、“窃取や侵入”は単なる例示であって、実際は“あらゆる形での漏えい”全般が“管理を害する行為”になるのです。このことは、「知る権利」、「報道、出版の自由」との関係で、きわめて深刻な問題を生じさせることになります。

 (4)“共謀、教唆、煽動”の意味、解釈も大問題です。もし、行政機関の職員同士、あるいは職員と外部の研究者やジャーナリスト、市民が、「この情報を『特定秘密』にするのはおかしい。この情報は平和と安全、あるいは市民の生命にとっても危険だから、ただちに公表することが必要だ」と相談したら、“共謀”となるでしょう。この法案には、そうした秘密指定に対する異議申し立ての規定はありませんから、誤った、あるいは危険な「特定秘密」が存在することの是正は、思いきって公表(“漏えい”)するしかないでしょう。また、「公表したほうがいいのでは」と言ったら“教唆”になり、「ぜひ、みんなに知ってもらうべきだ」と言ったら“煽動”とされかねません。この法案は、誤った、あるいは危険な情報を良識と倫理観に基づいて公表、是正する道をまったく認めていないのです。

 (5)「外国政府、国際機関」から「特定秘密」が漏れた場合も処罰の対象になっていますが、これはどのような捜査、公訴の手続きになるのでしょうか。相手の外国政府や国際機関が、この「特定秘密保護法案」と同等の措置(規制や処罰の法律・規則)を講じていることを条件に「特定秘密」を提供するというのですが、外国政府などは“自国の利益”に基づいて、日本から提供された情報を政治的あるいは外交的に、しばしば隠密に利用するでしょう。その場合、日本には漏えいの事実を知らされず、また公訴や処罰もされないことになるでしょう。この“抜け穴”は、“日米同盟の信頼関係”などの言葉では埋められず、実効性はあまりないと思われます。

6.知る権利、報道・出版の自由が奪われる−そして“被告人”の防御権も
 この法案は国民の「知る権利」や「報道・の批判を浴びて、与党の公明党が修正を求め、出版の自由」を否定するものだと「この法律の解釈適用」という第21条が加えられました。
 「この法律の適用にあたっては、これを拡張して解釈して、国民の基本的人権を不当に侵害するようなことがあってはならず、国民の知る権利の保障に資する報道または取材の自由に十分に配慮しなければならない」(第21条1)。
 「出版または報道の業務に従事する者の取材行為については、もっぱら公益を図る目的を有し、かつ、法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限りは、これを正当な業務による行為とするものとする」(同条2)。

 <問題点>
 (1)この第21条を読むと、あたかも「知る権利」や「報道、出版の自由」は保障されるかのような錯覚に陥るかもしれません。そうなるような表現が用いられていますから。けれども、その適用が“拡張解釈”かどうかは、実は適用する側、つまり政府官僚や警察が判断するのです。“不当”かどうかも同様です。そして政府官僚や警察は、自分たちの行為を決して“拡張解釈”とか“不当”とは言いません。

 (2)また、「報道、取材の自由に配慮」とありますが、そもそもそれらの“自由”は権力からの自由なのであって、権力者から“配慮”されるような従属的なものではありません。そして法案には、どう配慮するのか、そのために行政機関などは何をし、何をしてはならないか、といった“配慮”の具体的な規定はまったくありません。単なる“配慮”の言葉だけでは、何の実効性もありません。

 (3)さらに、“配慮”するのは報道や取材の自由とされ、「国民の知る権利」は直接の“配慮”の対象とはされていません。市民個人や市民グループが行政の情報を知ろうとしても、それは“配慮”の対象にさえならず、市民は、“拒否”と“処罰”の対象でしかないということでしょう。

 (4)出版・報道の取材行為についての規定は、複雑な分かりにくい論法です。「もっぱら公益を図る目的を有し」という第一条件は、“公益”(広く社会に知らせる価値がある)以外の出版、報道がありうるという前提に立っており、それを判定するのもやはり政府官僚や警察ということになります。
 それ以上に問題なのは、“法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限り”という 第二条件です。「特定秘密保護法」は、「適性評価」を受けた者以外には絶対に漏らさないという法律ですから、出版・報道関係者が合法的に(“法令違反”をしないで)「特定秘密」を入手する道は初めから閉ざされているのです。つまり、出版・報道関係者が「特定秘密」を入手したら、それはすべて“法令違反”になるしかありません。逆に“法令違反”でない「特定秘密」の入手方法とはどんなものがあるか聞きたいものです。
 また、“不当な方法”とは、かつての「西山事件」のようなことを指すと答弁しましたが、何が“不当”かも政府間用や警察が認定することになります。
「西山事件」の本質は、隠し続けた「密約」を報道された政府が、国民を欺いてきたことから批判の目をそらすために“男女関係”をクローズアップして、事実上もみ消したということであり、不当なのは政府の方だったのです。
 そして、“法令違反”や“不当な方法”と“認められない”場合は、“正当な業務による行為とする”(!?)――“「特定秘密」を報道する正当な業務”とは、矛盾の極みです。しかも法案には「処罰しない」とは善かれていません。この条項を追加した自公の関係者は、あたかも出版・報道の自由があるかのような“表現”さえあればごまかせると思ったとしか考えられません。

 (5)政府の情報に関して私たちの「知る権利」のもう一つの大きなルートは、国会の審議です。ところが、前に見たように、国会議員に「特定秘密」が示され、質疑がされるのは「秘密会」だけで、国会議員が質問しても、その会議録は非公開となり、私たちは誰も審議内容を知ることができません。
 国会議員は、主権者である“国民の代表者”として活動することが仕事であるはずなのに、その国会議員は国民に報告もできず、また秘密会に出席できない大多数の国会議員は、初めから終わりまでカヤの外に置かれることになるのです。

 (6)「特定秘密保護法」が成立して起訴された場合、その裁判はどういうことになるのでしょうか
@ 担当の検察官と、証人として出廷しうる捜査官は「特定秘密」を“ある程度”知らされているでしょう。しかし、起訴事実の中で「特定秘密」の内容を明らかにするためには、前に見たように、裁判を非公開にするしかありません。被告は密室で裁かれることになるのです。
 憲法82条は、「裁判による対審及び判決は、公開の法廷で行う」と定めていますが、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある場合は非公開にできる」という例外を設けています。政府・検察側は、“特定秘密の開示は公の秩序を害する”として裁判の非公開を主張するでしょう。しかし憲法82条は、
「ただし、政治犯罪、出版に関する犯罪又は憲法第三章で保障する国民の権利が問題となっている事件の対審は、常に公開しなければならない」と、クギを刺しています。報道・出版の関係者や市民が被告になった時、まさにこの82条ただし書きの原則が問題になるでしょう。
A 被告とされた人は、自分が知り得た情報の内容や評価について、弁護人と共有することになりますが、それはこの法案では「特定秘密の(弁護人への)漏えい」として罪に問われかねません。弁護人が「その情報の内容を私に教えなさい」と言えば、“教唆”“煽動”ともされかねないのです。法案には、被告人のこのような“防御権”に関する規定は存在していないのですから。
B まして、“未遂”の場合、被告人は自分が何を知ろうとしたか分からないままに訴追されることになります。その公判では、検察側は「特定秘密」は漏えいしなかったので、「その内容を開示する必要はない」と主張するでしょう。そうなれば、被告人も弁護人も裁判官も、いったい何の情報を入手しようとしたことが争点なのか分からないままに裁判が行われることになってしまいます。
 逆に、非公開の裁判になった場合、検察官が問題となった「特定秘密」を開示すれば、その時初めて被告人も弁護人もその「特定秘密」の内容が分かることになります。それは“検察官による漏えい”になってしまうので、そこでも開示されないという奇妙なことになってしまうでしょう。
C 裁判が終了して“有罪”の判決が出たとしましょう。その判決文には問題となった「特定秘密」の内容は記載されるのでしょうか。記載されない場合、有罪の理由には単に「特定秘密保護法○条違反」としか書かれないでしょう。これではとても“公正な裁判”とは言えません。
 もし判決文に、その「特定秘密」の内容が示された場合、その判決文自体が非公開とされるでしょう。刑事訴訟法53条2項は、「非公開の訴訟記録または一般の閲覧が禁止された訴訟記録は、記録保管者(検察官)の許可を受けた者のみ閲覧できる」としており、その判断基準の「公の秩序…を害するおそれがある場合」が持ち出されるでしょう。となると、ここでも憲法82条の「出版に関する犯罪又は国民の権利が問題となっている事件の対審は常に公開」という原則と衝突します。
 「特定秘密保護法案」には、このようなケースについての規定がまったくありません。「知る権利」と裁判における被告人の「防御権」のことは、まったく無視されているのです。

 7.「特定秘密保護法案」はツワネ原則にも反する
 最近、「ツワネ原則」という聞きなれない言葉が注目を集めています。これは、国連や欧州安全保障協力機構(OSCE)などの国際機関の職員、安全保障に関する専門家、国際法律家強化や国際人権団体など、70カ国の500人以上の有識者が、2年間にわたって議論してまとめた「国家安全保障と情報への権利に関する世界原則」(Global Principles on National Security and the Right to Information)のことで、南アフリカの首都ツワネ(Tshwane/プレトリアから改名)で2013年6月に採択されたことから「ツワネ原則」(Tshwane Principles)と呼ばれています。

 ツワネ原則は、「国家安全保障への脅威から人びとを守るための合法的な努力を危険にさらすことなく、どのように政府の情報への公衆のアクセスを保証するかという問題を扱い」、 「国際法、国内法とその運用に基づくものであり、関連する法律や政策の起草、改正、実施に関わる人びとへの指針を提供するため策定され」、「秘密保持の適正な限度、内部告発者の役割その他の事項について、これまでに例のない具体的なガイドラインを設定したもの」とされています。
 その主な原則の要旨は、次のようになっています(Peace Philosophy Centreのサイトを参照した)。

 原則1;公衆は、政府の情報にアクセスする権利を有する。それには、公的  機構を果たす、または公的資金を受けている私的団体からの情報も含まれる。

 原則4;知る権利への制限の必要性を証明するのは政府の責務である。

 原則9;政府は、防衛計画、兵器開発、および情報機関による作戦や使用された情報源のような綿密に定義された分野で、合法的に情報を制限できる。

 原則10A;しかし、政府は、国際人権法および人道法の侵害に関する情報(原則10には、大量破壊兵器の保有や環境破壊の情報なども列挙)は決して制限してはならない。これには、拷問や人道に対する犯罪の状況や下手人、秘密監獄の場所についての情報も含まれる。また、以前の政権下の過去の不正・虐待や、自己の政権の関係者またはその他により行われた侵害に関して保有するいかなる情報も含まれる。

 原則10E;公衆は、監視システムと、それを認可する手続きiこついて知る権利を有する。

 原則5、10C;安全保障部門や情報機関を含め、いかなる政府機関も情報公開の要請から免れることはできない。公衆はまた、あらゆる安全保障機関の存在、それらを管理する法律や規則、およびその予算について知る権利を有する。

 原則40、41、43;公的部門における内部告発者は、公表された情報における公益が、秘密の維持における公益より勝る場合、報復措置を受けることが あってはならない。しかし、彼らは、効果的な苦情申立てのメカニズムが 存在する場合には、まず、そのメカニズムを通して問題を解決する合理的 な努力をしておくべきである。

 原則43、46;情報を漏らした人への刑事訴追は、その情報が、公表による公益を上回る“重大な損害を生じるという、実在し確認しうるリスク”をもたらす場合にのみ考慮されるべきである。

 原則47;ジャーナリストその他、公務員でない人びとは、秘密情報を受けとり、保有し、または公衆に公表したことで、または秘密情報を求めたりアクセスしたことを理由として、共謀その他の犯罪で、訴追されるべきではない。

 原則48;ジャーナリストその他、政府で働いていない人びとは、情報漏えいの調査において、秘密の情報源その他の公表されていない情報を明かすよう強制されるべきではない。

 原則28;司法手続きへの公衆のアクセス権は不可欠である。「国家安全保障という呪文は、司法手続きへの公衆のアクセス権という基本的権利を危うくするために用いることはできない。メディアと公衆は、司法手続きへの公衆のアクセス権へのいかなる制限にも対抗することを許されるべきである。

 原則30;政府は、人権侵害の犠牲者がその侵害の救済策を求めたり獲得することを阻害するような国家秘密その他の情報を秘匿したままにすべきではない。

 原則6、31〜33;安全保障部門に対しては独立した監視機関が設けられるべきであり、それらの機関は効果的な監視に必要なすべての情報にアクセスできるべきである。

 原則16;情報は必要な期間に限り秘密扱いされるべきであり、決して無期限であってはならない。秘密扱いの最長許容期間は法律で定められるべきである。

 原則17;秘密解除を請求する明確な手続きが存在しなければならず、それには公共の利益となる情報の秘密解除の優先的手続きが定められるべきである。

 このツワネ原則に貫かれているのは、安全保障に関する情報の秘密維持は認めても、ジャーナリストや一般市民の知る権利、情報へのアクセス権、公共の利益の優先性、情報へのアクセスや内部告発を理由とした訴追や刑罰の排除や制限などが最大限に実現されなければならないという考え方です。「特定秘密保護法案」とは何と対照的な思想でしょうか。
 そして、この諸原則は、決して一部の“偏った”人びとによって提起されているのではなく、70カ国、500人以上という非常に多くの安全保障問題の専門家が、長い時間をかけて議論してまとめたという、国際的に権威のある文書なのです。
 もしかしたら、政府・官僚や与党の国会議員たちは、このツワネ原則を読んでいないのかもしれません。野党の皆さんも、少なくともこの原則に照らして法案審議を進めるべきでしょう。しかし、「特定秘密保護法案」の危険さ、乱暴さ、矛盾などは、この原則の一部を形だけ採り入れればすむようなものではありません。私たちは、あくまで「特定秘密保護法案」の廃案を求めます。

 「戦争する国」、「国民の自由と人権をしばる国」への突進
 (1)「日本版NSC」(国家安全保障会議)+NSA(国家安全保障局)と一体のもの
 「特定秘密保護法案」の審議は、衆議院の国家安全保障特別委員会で行われています。この法案審議が始まった日には、「国家安全保障会議設置法案」がわずか21時間の審議という超特急で強行採決されました。政府・与党は、この二つの法案は“一体のもの”と位置付けていますが、まさに一体であることの意味を考える必要があります。

 「国家安全保障会議」という機関を内閣に新設するというのですが、実は、「安全保障会議」という内閣の機関はすでに存在しています。この会議のメンバーは首相と9人の閣僚(計10人)で構成されています。9人とは、首相代理、総務、外務、財務、経済産業、国土交通、防衛の各大臣と内閣官房長官、国家公安委員長です。しかし、「国家安全保障会議」は、正式メンバーは首相と官房長官、外務・防衛両大臣の4人だけになります。これは“敏速な決定が必要だから”と説明されていますが、明らかに米国の国家安全保障会議(NSC)をまねたものです。米国のNSCは、大統領、副大統領、国務・国防両長官の4人だからです。けれどもNSCは、武力行使を筆頭とする政府の重大な意思決定の機関です。安倍首相がまねるのは“構成”だけではなく、“武力行使=戦争の司令塔”としての機関を確立することにあるのは明らかです。そして、NSCでの会議の議事録も、「機微な情報があるので、意見交換を妨げてはならない」(菅官房長官)として、作成するかどうか“検討する”と答弁されただけです。

 米国のNSCには、その実働機関として「国家安全保障局」(NSA)があります。職員数は3万人以上といわれ、全世界の通信傍受(盗聴)や暗号解読を行っており、CIAと並ぶ情報機関の中核です。通信傍受では“エシュロン”という巨大データベースの保有が有名ですが、最近では元CIA職員のスノーデン氏の告発により、同盟国・友好国の首相や大統領など各国首脳の個人携帯電話まで盗聴していたことが明らかになりました。日本も、その“重点対象国”とされています。

 さて、日本版NSCにも「国家安全保障局」という“日本版NSA”が創設されることになっています。今のところ、局長は外務省出身者で、局次長(2人)には外務省と防衛省内局出身の官房副長官補、審議官(3人)には外務・防衛官僚と自衛隊制服組が予定されています。その下に「総括」(トップは防衛官僚)、「戦略」(同)、「情報」(内閣情報調査室に出向中の警察官僚)、「同盟・友好国」(外務)、「中国・北朝鮮」(同)、「その他地域」(防衛官僚)の6部門が置かれ、総数60人規模で発足するとされています(うち幹部自衛官は10人以上)。

 「国家安全保障会議」は、10年程度までの長期的な“国家安全保障戦略”を確立し、対外政策や情報戦略、日米同盟などの外交・安保戦略を強化することが目的とされていますが、同時に、緊急事態には自衛隊の出動など“即応態勢”をとることが想定されています。そして、そこで扱われる情報、や米国から提供される情報など“日本の安全保障に重要”な情報を「秘密」 として外部に漏らさないため、「特定秘密保護法」が必要と説明されているのです。

 (2)”解釈変更”や法律で憲法を否定
 しかし、これもまだ、安倍内閣と自民党が考えている野望の一部にすぎません。自民党は2012年4月に「改憲草案」を発表しました。そこでは、憲法9条を覆して「国防軍」を置き、国民の自由と権利を制限して、“国民の義務”を強化することが柱となっています。

 安倍首相は、この改憲路線に基づいて“戦争できる国づくり”、“強力に国民を統治する国家権力づくり”をめざしています。このため、改憲の手続き規定である憲法96条の改訂論や、集団的自衛権行使の合憲解釈への変更作業を進めてきました。

 けれども、すぐに憲法を変えるのは困難と見た自民党は、「国家安全保障基本法案」をつくりました。これには、歴代内閣が憲法違反としてきた「集団的自衛権の行使」をはじめ、「教育、科学技術、建設、運輸、通信その他内政の各分野において安全保障上必要な配慮」とか、「秘密保護の法制措置」、「国民は国の安全保障政策に協力」など、“安保優先”、“いつでも戦争できる国づくり”の内容が盛られています。憲法を法律で否定し、覆そうというのです。

 今回の「国家安全保障会議」や「特定秘密保護法」は、そうした危険な国づくりの“主要な柱”の一つなのです。「秘密保護法」が支配する社会は、公安警察(かつての「特高警察」)の権限がさらに拡大し、“監視と委縮と沈黙の社会”になるでしょう。

 私たちは、こうした危険な企ての全体を見ながら、それを形作っていく具体的な個々の法律や政策に対して“NO!”の声をつきつけていく必要があります。私たちの平和と民主主義、自由と人権、そして子どもたちの未来を守るのは、私たち以外にいないからです。(2013年11月17日)

       「秘密保護法」は、こんなにヤバイ

     執筆者:筑紫建彦
     発行日:2013年11月17日
     編集・発行:憲法を生かす会東京連絡会・関東連絡会

 このパンレットは、「特定秘密保護法案」の危険を暴き、反対世論をさらに大きく盛り上げていくた場や地域での学習(会)や宣伝チラシ作製に活用していただく目的で発行しました。なお、印刷経にあてるカンパを寄せていただくことを希望します。

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