アメリカ兵が劣化ウラン体内被曝

イラク帰還兵が証言

 湾岸戦争やイラク戦争でアメリカ軍が使用した劣化ウラン弾によってイラクの子供たちが白血病やガンに侵され苦しんでいることを知っている方も少なくないと思うが、「当事者」であるイラクに派遣されたアメリカ兵が劣化ウランに体内被曝し、その愛娘が先天性障碍をもって生まれたことは知っているだろうか…。
 NY州兵としてイラク戦争に従軍(034月〜9月)したジェラルド・マシューさんが「ウラン兵器禁止を求める国際行動デー」(116日)にあわせて夫人のジャニスさんとともに来日して「事実」を誇った。
 マシューさんを招聴し、117日の「東京講演」(イラク帰還米兵が語る劣化ウラン被害一兵士として・親として)を開催したのはCADU−JP(劣化ウラン廃絶キヤンペ−ン)、JIM−NET(日本イラク医療支援ネットワーク)等の市民運動団体。明治学院大学の大教室で行われたマシューさんの講演に多数の市民が耳を傾けた。
 以下は、コーディネーターの鎌仲ひとみさん(映像作家・ドキュメンタリー映画「ヒバクシヤ」監督)の質問に応える形で語ったマシューさんの「証言」から記録したメモである。

マミノユーさんの評言

034月にイラクに派遣され、輸送部隊のトラック運転手としてクウェートの基地からバクダットヘ食料や水など補給物資を運搬し、その帰路には、破壊された戦車や軍用トラック、爆弾の破片などを積んで運んだ。(米軍はそれらを分別して金属等は再処理に回していた)。6カ月間イラクに従軍していた。
6日目から頭痛・下痢などの症状が出た。169人の所属部隊で同じような症状のものがいたが、軍医の診察はなく、また自分たちも気候のためと思っていた。突然の体調不良で送還(039月)されてからも症状は変らない。顔面が腫れ、排尿時の激痛、針を刺すような頭痛が月に7080回も襲う。陸軍医療センターで診察にあたった医師たちにはマシューさんの症状の原因がわからなかった。他の医者の診断では慢性偏頭痛+?とされているらしい。
*帰国後、妻のジャニスさんが妊娠し、04年に娘ビクトリアちゃんが誕生したが、彼女は右手3本の指が欠け、右手のほとんどが欠損していた。
*湾岸戦争後のイラクで先天性障碍のある子供が数多く生まれたことを知った夫妻はビクトリアちゃんの身に起きたことは、マシューさんの「健康被害と関係がある」のではと疑った。そして研究機関での検査でマシューさんの体内被曝が確認された(軍の医療機関では門前払い状態であるということを述べていた)。他の被爆している兵士よりも48倍高い数値である。
*さらに、NY「デイリーニュース」紙の「イラク帰還兵から劣化ウラン反応が検出された」というスクープがあり、彼ら健康被害を訴えるイラク帰還兵8人と連絡を取りあい、いまペンタゴン(国防総省)を相手に被害補償を求め裁判を提訴している(集団ではなく個別訴訟で。マシューさんの場合は娘の分とあわせて1000万ドルを求めている)。軍からは劣化ウランについては事前に何も知らされていなかった。また、マシュ−さんは陸軍の前は海軍におり20年の軍歴になるが、劣化ウランについての知識はまったくなかったという。
*<日本の自衛隊が行っているサマワにはいたのか>破壊されて標識もなく、あっても読めないので、部隊ではA地区、B地区、C地区とか呼んでいたので分からない。しかし2人の日本の兵士に会ったことがあるので、サマワにも行ったと思う。訴訟を起こしている友人のレイモン・ラモスなど5人はサマワに駐屯していた。
*アメリカは戦争中であり、また、軍の補償を受けるには軍による医療を拒むことが出来ないシステムのなかで、かつ政府・軍の態度がまったく不誠実である(劣化ウラン兵器の使用もその危険性も認めていない。日本の政府も同じ)なかで、厳しいたたかいである。医学的に劣化ウラン被爆による因果関係を証明し、認めさせることも大変であると思う。親しかった軍の友人たちはみな離れていってしまったが、各地で心ある人びとに理解を訴えている。
*ジャニスさんは「当初は夫からそんなこと<イラク従軍のために子供にも被害が起こる>は言うな。殺されるぞ」と言われことを紹介しながら、夫とともに「世界に向けて娘が『もういい』と言うまで、娘に何が起きたのか語りつづける」と述べた。<イラク戦争については…>マシューさんは「自分は戦闘部隊ではなかったのでイラクの人びとを傷つけてはいないが、イラクの人びとには心から謝りたい」と語った。
       ◇ ◇ ◇
 子をおもう親の気持ちは、国を超え民族を超えて同じである。また、理不尽にその身体と心を傷つけられた人間の苦しみと怒りも…。自衛隊が駐屯しているサマワで劣化ウラン兵器は使用されているのであり、マシューさんと家族に起こった事態は日本(自衛隊)にとってもけっして無視できない間遠である。私たちは、自衛隊のイラク派遣に反対であるが、一日もはやくイラクにいる自衛隊員を無事に戻さなくてはならない。12月の派兵延長をやめさせなくてはならない。
               (2005119日記)

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劣化ウラン(弾)

 自然界に存在する天然ウラン(ウラン235)を濃縮して、原発の燃料となる濃縮ウランや核兵器に使用されるプルトニウムが作られるが、この濃縮過程で大量の残存物質−「核のごみ」が出てくる。これが「劣化ウラン」で、その998%を占める「ウラン238」は、呼吸や水・食料を通して−度体内に取り込まれると長い期間とどまり、体内被曝を起こし、ガンや白血病、遺伝子異常による先天性異常をもたらす。ウラン238の半減期は45億年で、半永久的に環境を汚染し、放射能被害をもたらす。劣化ウランを兵器にしたのが「劣化ウラン弾」で、その破壊力は非常にすぐれ、分厚い戦車の装甲を貫通する。
 アメリカは初めて使用した湾岸戦争で300400トン、アフガンで5001000トン、イラク戦争では8002000トンの劣化ウラン弾を使用したと言われている。ボスニア、コソボでもNATO軍が使っている。アメリカ政府は、1トン=1ドルで兵器産業に劣化ウランを払い下げている。安価でしかもやっかいな核廃棄物の処理にもなる劣化ウラン軌現在通常兵器と同じ扱いで国際法上の制約はない。

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 福島みずほ参議院議員が「イラク戦争にあける劣化ウラン弾使用並びにイラク住民及び自衛隊員の健康診断等」に関して政府に問い質している(84日・質問主意書)が、政府答弁(812日・答弁書)は、「イラクに派遣された外国の軍隊の要員及びその子の疾病等に関する情報を有していない」「これまでのとこう、劣化ウラン弾の影響による健康への被害を確認する情報を有していない」とし、自衛隊員に対し「『劣化ウラン弾の影響を考慮した特別な健康診断』は行っていない」としている。
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