第二四条 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。

男女平等

揺れる女性の人権

「家」重視 復活の動き


 理由は何でもよかった。夫は気に入らないことがあれば妻を殴った。
 「なんで帰りが遅いんだ」「味付けが甘いんだよ」「恥をかかせやがって」−。
 ある夜、妻は頭が割れるような激痛で跳び起きた。額から流れる血。そばで、酔った夫が酒瓶を手に立っていた。「風呂の沸かし方が気に入らない」と腹を立てていた。
 すぐに病院に駆け込んだ。「夫にやられた」と話すと、治療代を全額、請求された。「暴力やけんかによるけがは、保険の対象にならない」と、説明された。
 その後も何度も家を出たが、結局、戻った。
 「耐えようと思ったの。子どものために」
 六十代の女性は、そう言って涙をこぼした。
 県央で義父母と同居する会社員の夫に嫁いで四十年余り。家事や仕事、育児や義父母の介護に明け暮れた。その間、ずっと暴力による支配に耐え続けてきた。

■具体化まで54年

 憲法二四条は「家族関係における個人の尊厳と両性の平等」をうたう。女性の人権を保障し、女性が差別された戦前の家制度の転換を迫った。
 だが「家」の中での女性の人権が具体的な政策で守られるようになるには、長い歳月を要した。
 「夫婦げんか」と呼ばれた配偶者による暴力を、「犯罪となる行為」と認めたドメスティックバイオレンス(DV)防止法が成立したのは二〇〇一年。憲法施行から五十四年がたっていた。
 そして今。改憲論議の中で、憲法二四条が「行き過ぎた個人主義の風潮を生んでいる」などとして、新たに「家」を重視する規定を求める意見が強まっている。
 自民党は四日に発表した独自の改憲試案要綱で「家庭等を保護する責務」を加え、子を養育する責務と親を敬う精神の尊重などを明記した。
 護憲を掲げる社民党は「二四条の見直しは、個人の人権を抑制する『公共』の基盤として家族を位置づけ、戦前の家制度の復活になりかねない」と反論。「創憲」の民主党内にも慎重論がある。

■社会的な差別

 夫の暴力におびえながら時は過ぎた。
 女性はささいな口論から、夫に首を絞められた。必死に抵抗した。
 「今度戻ったら殺される」。ついに、家を離れる決心をした。
 憲法とほぼ同じ時を歩んできた人生。「いつも誰かのために生きてきた」。独りになって初めて気付いた。
 DV防止法成立後、相談窓口には、家庭内でひたすら耐えてきた女性たちの悲痛な声が寄せられている。
 多くのDV被害者にかかわってきた宇都宮市の横山幸子弁護士。「DVの根底には、夫が妻を『養ってやっている』というような、男女の経済力の格差に基づく社会的な差別意識がある」と指摘する。
 「家」という形の中に押し込められてきた女性の人権。「二四条」はどこに向かうのか。
 衆参両院の憲法調査会報告書。「家族に関する規定」をめぐり賛否は分かれ、方向性は示されていない。

 くらしと憲法Top