第二五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
生存権

増える弱者の負担

権利と責務のはざまで


 体中の関節に痛みが走る。立つこともできず、横になってもつらい。はしさえ持てず、あごが痛くて食べること自体、難しいときもある。
 宇都宮市の主婦大島文子さん(54)は、二十歳のころから関節リウマチに悩まされてきた。今でも「いつ悪化するか、いつ入院するか、という不安と隣り合わせ」の状態にある。
 これまでの入院費用は合わせて約三百万円。退院後も二、三日ごとに通院し、交通費も含めると月十万円は支払った。
 夫の給料が自分の医療費に消える−。体の痛み以上につらかった。
 二〇〇三年には被用者保険の本人負担率が二割から三割に増加。大島さんの疑問も膨らむ。
 「私たちを支えてくれる制度の向上に努めるのが、国や政治家の仕事じゃないんでしょうか」

■「福祉切り捨て」

 憲法二五条は、すべての国民に「健康で文化的」に生きる「権利」を保障する。病気や障害を抱える立場であれば、その重さは一段と増す。さらに二五条は、福祉や社会保障を向上させるのは国の義務としている。
 自民党は改憲論議の中で、「社会的費用を負担する国民の責務」の追加を主張する。背景には国民年金の未納問題や、社会保障制度の財源難がある。社民党は「福祉切り捨てと負担の国民への転換をより推進しようとするもの」と反発する。
 だが、こうした論争を追い越して、現実は先へ先へと進む。
 一昨年から県内の透析患者の間に、異変が表れた。病院で透析の際に出る食事を取らない患者が増えているという。
 県腎臓病患者友の会の竹原正義会長(65)は「理由を聞くと『食べたくない』と言うんだけど、本当は食料費を払えないんじゃないかと思う」。
 無料だった透析時の食料費は、二〇〇二年から患者負担になった。一カ月平均約八千円、年間でおよそ十万円の出費となる。
 病院の食事は、透析患者に配慮した栄養の献立。「自己負担になる前は、食べない人はいなかった」。自らも週三回の透析に通う竹原さんは、仲間の心中を察する。

■生活に「不利益」

 透析患者を含む身体障害者らの負担は、これだけにとどまらない。
 現在、国会で審議中の「障害者自立支援法案」は、自己負担のなかった低所得者層にも医療費の支払いを求める内容だ。利用する福祉サービスの量に応じて自己負担率が 上がる制度も検討されている。
 「社会的弱者を、ことさらいじめることはないだろうって言いたいよ」。竹原さんは表情を曇らせる。
 平等原則を定めた憲法の下でも、障害者や難病患者は実生活に多くの「不利益」を感じている。国の財政が逼迫(ひっぱく)する中、「生存権」の意味があらためて問われている。

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