被害者は置き去りに
「加害者に偏り」指摘も
わずか十四分だった。
「裁判は誰のため、何のためにあるのですか」
閉廷後、小佐々洌子(きよこ)さん(57)は声を震わせた。
今月二十日、東京高裁。鹿沼市職員殺害事件で、実行犯のリーダー格とされる田村好被告(64)の控訴審。宇都宮地裁から欠かさず傍聴を続ける洌子さんの姿があった。
事件から約三年半。理不尽な逆恨みで殺された夫の守さん=当時(57)=の遺体はまだ見つかっていない。「被告が何か手掛かりを語るかもしれない」。わずかな望みを法廷に託していた。
だが、田村被告が言葉を発したのは名前と住所だけ。裁判長は、弁護側が請求した被告人質問と証人尋問を認めず、裁判は淡々と結審した。
「被告に直接聞いてみたかった。でも、裁判は、被害者遺族が知りたいことを知ることができない場所なんですね」。洌子さんは涙をぬぐった。
■権利明文化を
環境権、プライバシー権、知る権利…。衆参両院の憲法調査会では、これら「新しい人権」の一つとして「犯罪被害者の権利」が議論された。
「新しい人権」については、憲法一三条の「幸福追求権」などに含まれるとして明文化に慎重な意見もあった。「改憲の理由付けになる」と護憲派が反発したためだ。
衆院調査会の報告書は「憲法の規定は被疑者や被告の人権に偏っているなどの理由から、公的援助や刑事手続きへの関与など犯罪被害者の権利を規定すべきだ」との意見を記した。
「全国犯罪被害者の会」(あすの会、代表幹事・岡村勲弁護士)は、被害者の権利の明文化を訴え続けている。
県内では昨年、県議会と宇都宮、足利、小山、佐野の四市議会が「あすの会」の陳情を採択。「犯罪被害者の権利と被害回復制度の確立を求める意見書」を可決した。
陳情提出に動いたのは、同会で活動する足利市の安藤勝一さん(62)。娘の弥生さん=当時(18)=を殺人事件で失った。
「被害者になって初めて分かった。弁護人の依頼権など、加害者側は憲法で守られているのに、被害者は置き去りにされてきたんです」
■遠い憲法論議
被害者支援を「国の責務」とする犯罪被害者基本法が今月一日、施行された。五月には「被害者支援センターとちぎ」が設立される。「改憲よりも、まずは被害者対策の充実を」との声もある。
被害者の等身大オブジェで無念の思いを伝える「生命のメッセージ展」。宇都宮市や国会内で開かれたが、本県の議員の来場は少なかった。
支援センターとちぎ設立委員で、飲酒運転のトラックに娘の由佳さん=当時(19)=を奪われた矢板市の和気みち子さん(48)は「政治家は、被害者の立場や心情をもっと知るべきです」と語る。
衆参両院の憲法調査会は、当事者である犯罪被害者の声を直接聴くことはなかった。
和気さんは言う。
「憲法論議も同じ。被害者から遠いですよね」
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